第8話

父親の両親は、それなりに孫の私を可愛がってくれたけれど、会う機会はそうそう無かった。


そりゃ、そうだよね。


両親が揃って私を連れ歩く事なんて、滅多になかったのだから。


お盆や正月の挨拶の時ぐらいしか顔を合わせない祖父母に私も素直になつくことが出来なかった。




母親は母子家庭で育ち母が高校の頃に亡くなったと聞いていた。


自分は天涯孤独だと母親は言ってたけど、小学校の入学式に母親の父だと名乗る祖父に出会ったんだ。


世間体を気にする両親は、小学校の入学式には揃って出席した。


でも、入学式が終わると二人はそそくさと互いの用事で居なくなった。


周りの子供達が両親と手を繋いで帰る中に、一人トボトボ帰っていた私に声をかけてきた着物姿の男の人が祖父だった。


警戒していた私に、分かるように自分の存在を説明してくれた祖父。


自分と同じ目をした祖父が、握り締めてくれた手の温かさを今でも忘れてない。


それから、祖父は両親には内緒だと言いながら、彼らが来ない学校行事にちょくちょく顔を見せてくれるようになった。 


祖父がいたから、私はここまで来れたような気がする。



「なんだかセンチメンタルな気持ちになっちゃったな」


苦笑いを浮かべて、ビルの谷間に沈んで行く夕日を見つめた。

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