第6話

10畳もあるリビングを見渡す。


随分、荷物は片付いた。


このロフト付きの1LDKが今日から私の城だ。



1Kのこじんまりとしたアパートでいいと言った私に、セキュリティーのしっかりした所じゃないとダメだと言ってお祖父ちゃんが用意してくれたのがここ。


オートロックでエレベーターや各階に監視カメラの付いたこのマンションは今年新築されたばかりだと言う。


高校生の私には勿体ない代物だ。


お祖父ちゃんが最初に掲示してきたマンションはこれより更に高級な場所で、3LDKで1階のエントランスにはコンシェルジュが常時詰めてるような所。


それはさすがに断った。


私にはどう考えても分不相応だから。



「よし、買い出しついでに街の散策にでも行こう」


七分丈のカーゴパンツにロンティを着ていたので、その上に白いパーカーを羽織って鍔の広いキャップを被ってその中に長めの茶髪を隠した。


外はもう薄暗い。


治安が良さそうな場所だと言っても注意するに越したことはないよね。


パッと見て女の子に見えない風体で街へと繰り出した。





マンションすぐ側の住宅街を抜けて、商店街を目指す。


駅に近いこの場所は交通の弁も生活面でも都合が良い。


買い物帰りの主婦や、クラブの帰りらしい学生と擦れ違う。


初めての街並みにドキドキする気持ちを抑えて、パーカーのポケットに両手を突っ込んだまま歩く。



今日の晩御飯を一先ず買おう。


本格的な買い物は明日で良いや。


3月の夜風はまだ冷たい、ウロウロするもの限界がありそうだ。



スーパーを見つけて、適当な軽食と飲み物を買って帰る事にした。


マンションの周辺は比較的道が分かりやすくなっていて、初めての私でも迷うことはない。


そう言えば、マンションの裏手に公園があったよね。


引っ越してきてすぐに窓から見た景色を思い出す。


ちょっとだけ寄ってみよう。


どうしてだか、そんな気分になったんだ。



これってさ、運命だったのかな?


この日、公園を訪れなければ出会うことは無かったんだもん。

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