第30話

「瞳依ちゃん、お願い。親しみ込めて名前で呼んでよ」

自分の会社の社長相手に親しまないといけない理由が、全く分からないんですけど。


ほら、大会社の社長って威厳あって一線引いたりしなきゃいけない存在だし。

前に勤めてた鉄工所なんかは、中小企業で社長との距離も近かったけどさ。


会う度に呼び方を変えてほしいと言われると変えなきゃいけないものなのかと錯覚はする。


空っぽになったプリンの瓶をテープルに置きながら、三村さんに助けを求めて視線を向けてみる。

どうすればいいのか教えてください。


「社長がしつこいので、呼び方変えてあげてください」

わぁ、しつこいとか言ったよ、この人。

丁寧な話し方なのに遠慮がないな。

しかも、斎賀さんを見る目が最高に冷え冷えしてる。


「じゃあ、キングって呼びますよ」

名前で呼んだりして、キングの取り巻きのお姉さん達に変な誤解されたく無いしね。


「ええ〜! まさかのキング呼び?」

「名前でなんて恐れ多くて呼べません」

いくら不服そうに言われてもこれは譲らない。

自分の身は可愛いからね。


「ま、仕方ないか。おいおい呼び方は変えてこうね」

イケメンのウインクは、ムカつくほどにかっこよかった。

綺麗な顔に生まれると、色々と得するんだろうな。


「話が纏まったところで打ち合わせの続きをします」

「はい」

三村さんの言葉に素直に頷いた。


「今月末に招かれているパーティーが女性同伴なので、社長の同伴者として参加してください」

「えっ? 嫌ですよ」

さらりと言われた言葉につられてさらりと断ったあと、はっと我に返って口元を抑えた。

ヤバい、三村さん相手にこれは駄目だ。


「す、すみません」

戦々恐々としつつ謝罪するも、三村さんからは絶対零度の視線が向けられてて、ヒヤリとした何かが背中を伝った。


「はぁ···まぁ、そう言いたい気持ちも分かりますが、これは決定事項です」

分かってくれるのに、拒否権はないんですか〜!

ガクッと項垂れた私の頭をポンポンと叩いたキングを、ムカついたので睨んでおいた。


「ま、瞳依ちゃん人間諦めが肝心だよ」

お前が言うな!

キングのせいで巻き込まれてるんですからね。

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