第29話

それより、早くプリンを食べたいな。

テーブルに並べられたプリンを物欲しそうに見つめてしまう。

冷たいうちに出来れば美味しく頂きたい。

でも、今は打ち合わせ中だし。

簡単に手を出せないところが辛い。


「そんな物欲しそうにしなくても食べていいですよ」

呆れの混じった三村さんの声に、

「い、良いんですか?」

食い気味に尋ねる。


「どうぞ召し上がってください。食べながらでいいので話を進めましょう」

「はい、いただきます」

食べて良いなら迷わず食べる。

瓶に入ったプリンの蓋を開ければ、プルルンと表面が揺れた。

見るからに美味しそうなそれに、スプーンを入れればとろりとしていた。


やれやれと肩を竦めて私を見てる三村さんを横目に、口の中に入れたプリンは冷たくて滑らかで、口当たりがよくとても美味しかった。


「んっ、美味しい」

ほっぺたが落ちそうなそれに自然と笑顔になれば、

「瞳依ちゃんは、何でも美味しそうに食べるよな。買ってきたかいあるよ」

と斎賀さんが優しい目で見つめてくる。


お兄ちゃんがいたら、こんな感じなんだろうか。

一人っ子の私には経験のないモノだな。


斎賀さんが買ってきたんじゃないけどねと、思いつつもそれは言わない。

光輝君、ありがと〜!

貴方が並んで買って来てくれたプリンは最高級品でした。


「斎賀さん、ありがとうございます」

持ってきてくれたのは彼なので、やっぱりお礼は言っとかないとね。


「うん、また買ってくるね。ところでいつまで斎賀さんて呼ぶの? 他人行儀すぎだよ」

さも自分が買ってきたように言える斎賀さんが凄い。


「明らかに他人ですよね」

真顔で返してしまう。

何を持って他人じゃないと思えるのかが知りたいぐらいだ。


「快斗、瞳依ちゃんが冷たいよ」

泣き真似をして三村さんに訴える斎賀さんの左指には今日も王冠をデザインした指輪が鎮座してる。

あれって、特注なのかな。

見るからに高そうなんだよね。


「市原さんの言う事は間違っていませんよ」

「うっ、快斗まで塩対応なの」

「ええ。社長は甘やかすと助長しますしね」

「酷いな〜」

コントの様な2人のやり取りを眺めつつも、私はプリンを食べ進める。

こんな美味しい物食べずにいられませんよ。

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