第28話
テーブルに斎賀さんの買ってきたプリンが並ぶ。
どうやら、今日のおやつはプリンらしい。
小振りのそれは高級卵を使った無添加プリンで、滑らかな舌触りと濃厚な味わいで有名な物だった。
「あ、このプリン、1日200個限定のやつじゃないですか」
なかなか買えないと、女子社員の間で噂になってたよ。
「そ、朝早く並んでようやく買えた」
自慢げに胸を張った斎賀さんは、
「光輝(こうき)に買いに行かせたくせに、さも自分が買ってきたみたいな顔は良くないですよ、社長」
無表情の三村さんに突っ込まれた。
この人でもツッコミとかするんだね。
そっちを感心してたら、斎賀さんがいつの間にか隣に座ってた。
「瞳依ちゃん、快斗ばっかり見てないでよ」
「か、顔近いです」
ピタリと体をくっつけて、綺麗な顔を近付けてくる斎賀さんの胸を両手で突っ張って押しやる。
パーソナルスペース保ってくださいよ。
「あれ? 瞳依ちゃん耳赤いよ」
「煩いです」
そりゃ赤くもなるよ。
身震いするほどの色気のある美丈夫が近距離に居るんだから。
だいたい私、男の人に免疫ないんですってば。
あたふたしてる私にしたり顔を向ける斎賀さんの顔面に拳を打ち込んでも、今は許されるような気がした。
「はぁ···節度ある距離を保ったらどうですか? 市原さんはキングが普段相手をしてる女達とは違うんですよ」
尖った視線で斎賀さんを見て、抑圧性のある声でキングと呼んだ三村さんに、
「ちょっとした冗談だって」
ハハハと笑いながら私から離れていった斎賀さん。
普段、三村さんは会社にいる時は斎賀さんの事を社長と呼ぶ。
プライベートでは、親しみを込めてキングと呼んでいて、斎賀さんを諌める時にその名前を呼ぶのは本気で怒ってる事を伝えるためだとか。
だから、斎賀さんも引き際をわきまえてる。
なんでも2人は高校からの同級生で、随分と気心も知れている関係らしい。
だからこそ、2人だけにしか分からない空気感があるのかも知れない。
まぁ、そこに入り込みたいとはまったく思えないけどね。
斎賀さんが離れてくれた事でホッと息をついた私は、隣から切なそうに訴え掛けてくる視線に無視を決め込んだ。
ここで相手したら、とんでもない事になるからね。
て言うか、光輝さんお疲れ様です。
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