第6話
「·····」
言葉を失って見とれてしまったのは、仕方ないと思う。
そんな私をよそにイケメンはゆっくりとした足取りで近付いてくる。
ちょ、ちょっと、危険な匂いしかしませんけど。
彼から逃げるように後ろへと下がれば、直ぐに歩道橋の欄干に背中がぶつかった。
いやいや、マジでどういう事?
さっきまで歩道橋に、人なんて居なかったよね。
この人、いつ、どうやって来たのよ。
「仕事をあげるよ」
目を細め再びそう言う彼に、頭の中が混乱する。
本気で誰かに頼んだ訳じゃないんだよね、あれ。
心の叫びっていうか、酔っ払いの戯れ言って言うか。
そもそも、危ない匂いしかしないこの誘いには簡単に頷けそうに無いよ。
「あれはちょっとした冗談と言うか、愚痴と言うか」
愛想笑いでそう返す。
決して見知らぬ人に向けたお願いではないんですよね。
「でも、仕事ないんでしょ?」
人好きのする甘い笑顔で首を傾けた男性の瞳はそれに似合わないぐらい鋭い光を放ってる。
「まぁ、そうなんですけど」
嘘を言っても、この人には見透かされてしまうような気がした。
「じゃいいよね。君は仕事を探してる。俺は従業員を探してる。これってwin-winだよね」
両手の指でWを作ったその人の左の中指には銀色の王冠を形どった指輪。
軽い感じの喋りと態度なのに、空気がそうじゃないってなんなの、この人。
素直に頷いたら、とんでもない事に巻き込まれると私の野生の勘が警告してる。
無茶苦茶かっこいい、超絶のイケメンなのに危ない匂いしかしないんだよ。
「せっかくのお申し出なんですけど。知らない人からのお誘いはご遠慮します」
アハハと笑うと、目の前の彼は一瞬目を見開いた後、満足そうに微笑んだ。
「うん、合格。俺は
つらつらと自分の事を語りだした斎賀結翔さん。
合格って何がですか?
「あ、はぁ」
「家族構成は両親と兄と妹が1人ずついる。現在は一人暮らし中。で、君の名前は?」
グイグイとくる斎賀結翔につられたのは、きっと彼の行動に唖然としてたからだと思う。
「
やばい名乗っちゃったと思い慌てて口を片手で塞いだけど、それはもう後の祭り。
ニイッと口角を上げた斎賀結翔は、悪い顔でこう言った。
「ほら、これで知らない人じゃないよね」と。
この瞬間に、私の未来は確定したんじゃないかと思う。
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