第27話

出てきた人は、やっぱり高校生ぐらいの男の人だった。眠たそうな目をして、スウェットにTシャツとラフは格好をしていた。



「…だれ?」



男が顔を傾けてきた。

金髪で凄く怖い不良が出てくると思っていたから、少しだけ心の中はほっとしていた。



「あの……わた、」


「ん?」


「私のともだち…きてませんか…?」


「友達?」



うーん?と、考えた素振りをする男は、「…なんて名前?」と聞いてくる。



「や、やまと、です」



私の言葉に、「やまと? …ああ、あのガキ…」と、軽くトーンをあげたその人は「いるよー中に。おいでよ」と少し扉を開けると中へ入っていこうとするから。



「あ、あの、呼んできて貰えませんか?」



できるだけ、中にはいりたくないから。

いるのを確認した私は、また心を撫で下ろした。



「んー、あいつ酒飲んで寝てるからー。君が起こしなよ。嫌だったら帰りなぁ」




酒?

倭、お酒も飲んでるの…?

あいつ、なにしてるの?



「つ、連れて帰ってもいいですか?」


「どうぞ?」



意味深な笑みを浮かべたその男は、私の手を引き玄関の中に招きいれた。


そしてどうしてか、──ガチャンと鍵をかける。その音に、嫌な気配がして。

「あの、」といえば、「ほら、靴脱いで?」と腕を強引につかまれる。



「すみません…、あの、やっぱり呼んでもらって…」



その腕の掴まれ方が怖く、1歩あとず去ろうとすれば、「ここまで来て?」と、また強引に腕をひく。



私はそこでようやく気づいた。



──…無い。


玄関に、倭の靴がない。


倭はいつも、同じブランドの靴を好んで履いていたから。


そのブランドの靴が、この玄関にはなくて。



倭はここにいない…。




「かえります、すみません…」


「え?帰るの?」


「だ、だって、倭、いませんよね?」


「んーそういえばいないかなぁ?」


「っ、」



逃げなくちゃ…

咄嗟にそう思った。


倭はここに絶対いない。




──…私の考えが、浅はかすぎた。

危険だと分かっていたのに…。



玄関の扉のノブをひねろうとすれば、鍵がかかっているのに気づき、急いでその鍵を開けようとすれば、「だーめ」と、お腹辺りを抱きしめてくる男に、冷や汗が止まらなく。



「やっ、」


「はい確保」


「やだ!」


「おーい、中学生の女の子捕まえた〜!」



玄関からリビングに向かうその人に、がっちり腕を回されたままで。半ば引きずるように廊下を歩いていく。


おかげで靴ははいたまま。





まずい、




ガチガチと、歯が鳴りそうなくらい、体が震え上がる。




「は、離してっ、かえる、帰るから!」


「はいはい」


「やめてっ…」




いやな、変な匂いがした。

煙草と、何だかアルコールの交じった匂いだった。

あと、汗…じゃない。

なんだか、嗅いだことの無い…変な匂いが、鼻に届いた。




そこには、3人の男たちがいて。

倭の姿は、ない……。






「なに?誰その子?」


「しらない、やまとってやつ探して来たんだって」


「…やまと? ……ああ、確か、あいつらが可愛がってるの倭って言ったなぁ」


「知ってんの?」


「知ってるも、3回ぐらいここに来てたじゃん、お前ぶっ飛んでたからな〜」


「つか、あいつが来てたのいつの話だよ。もうあのガキこっちが嫌で向こう行ったわ」



ずっと抱きしめられた私は、乱暴に床に降ろされた。痛む体をこらえ、もう一度逃げようとすれば、元々部屋にいる男の人に足首を捕まれ、逃げることも出来ず。



「やっ…」



やだ

やだやだ、


こわい……



必死に暴れようとすれば、もっと強い力で、ずず…っと床を引きずるように男の元へ寄せられる。



寝転んだまま、全く、誰か分からない男に押し倒されている私は、私は…




怖くて声が、出なかった…。




今からされることが、なんとなく、分かってしまったからなのか。




体は震えて動いてるのに、声が出てくれない。




私は倭に会いたいだけだった。







倭…。





どこにいるの?

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