第26話

帰り道の車の中で、「大丈夫なの?」とお母さんは眉を下げて聞いてきた。



大丈夫⋯。

分からない。


本音言うと、私自身が1番驚いていたから。



あれだけ喋ったのに、震えていない。

病院の中にたくさんの人がいたからか。


あの人から、憎悪を感じられなかったからか。


それとも、学校の近くで働いているという、身近な存在だと思ったからか。


カウンセリングを終えたすぐだったからか。



「うん、大丈夫⋯だったよ」


「さっきの彼、昨日の人じゃなかった?」



どうやら、お母さんも覚えていたらしく。



「うん、さっきスマホ拾ってくれて⋯」


「そう」


「学校の前で、働いてるんだって」


「学校って、湖都の?」


「うん」


「そう、まあ、無理しちゃだめよ」


「うん、心配かけてごめんね」


「当たり前のことをしてるだけよ」



お母さんは心配そうに、優しく微笑み。



その微笑みが辛い私は、にこりと笑った。

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