第16話
汐璃は一筋縄ではいかない子であった。
汐璃は一見か弱くて隙が多い印象があるが、ガードが固く、難攻不落だった。
愛らしい汐璃は時々告白をされていたが、頷くことなく断り続けていた。
サークル内にも汐璃を付け狙う輩がいた。千里はすかさず汐璃に遠距離恋愛中の彼氏がいるとデタラメを吹聴した。
千里は口説くのを辞めて、良き先輩の振りをして様子見をしていた。
――汐璃って誰が告ってもばっさり断るよね。もしかして理想が高いタイプ?
――そんなことはないですよ。私、一生誰ともお付き合いをしないと決めているのです。
――ええ、勿体ないなぁ。
――勿体ない? 今は勉強で精一杯ですから。
四月の半ばに行われた新入部員を歓迎する飲み会で、密かに盗聴器を付けた。そこから聞こえる汐璃と友人の会話を、千里はイヤホンで聞いていた。
(過去に何かあったのか? どうやって汐璃を懐柔させてやればいいんだ)
本当は汐璃と接点を持ちたかったが、千里の傍に常に同級生や先輩の女子が取り巻いていた。
個人的に汐璃と関われば、彼女達が汐璃に何をするか分からない。挨拶を交わすのが精一杯だった。
千里はやきもきしながら日々を過ごしていた。
後期の試験を終えた一月の下旬。
千里は同じ学部の友人の自宅のアパートで宅飲みをしていた。
汐璃ほどではないが酒が強い千里は、どれだけ飲んでも酔いが回ってこなかった。
「千里ー、お前眉間にシワ寄ってる。嫌なことあったの?」
「ああ、別になんもないけど」
(汐璃が合コンに参加してるのに、笑ってられるわけねえだろ)
今日、汐璃は友人に誘われて合コンに参加していた。
汐璃はザルだが、睡眠薬を盛られる可能性を考えると気が気ではなかった。
可愛い汐璃は引く手数多だ。一生誰とも付き合わないと宣言していたが、もしかしたら見初める相手が現れるかもしれない。
(悠長に呑んでられない)
千里は友人に具合が悪くなったと適当な嘘をついて、友人の自宅を後にした。
千里は駅のホームのベンチに座ったまま何本目かの電車をずっと見送っていた。
先程からずっとイヤホンから聞こえる汐璃の声を聞いていた。
汐璃は合コンの場においてひっぱりだこであった。デレデレと汐璃に話しかけたり、一気飲みを強要する輩に、尋常ではない殺意を滾らせてしまう。
殺意と嫉妬を持て余しながら盗聴内容に耳を傾けていたが、次第に汐璃に向けられた雑音は少なくなり消えていった。
――あれ、皆ダウンですか?
――全滅だよ。汐璃、かなり呑まされたけど体調大丈夫?
――何ともありませんよ。
――あんた、酒強いね。お金置いて帰ろっか。
――そうですね。私計算しますね。
(よかった……汐璃に何もなくて)
千里は大きな安堵の息をついた。
(今日は寝れそうだ。汐璃の声を聞きながら帰ろう)
千里はようやく立ち上がり、ようやく停まった電車に乗車した。
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