第12話

「お前、最近どうした?」



「何?」



「元気ねぇし、溜息はつくし」



「…別に」



その質問には答えず、見透かすようなその瞳から視線を剥がした。

ポーンポーンとベースを鳴らすシンさんの含んだような笑いがスタジオに響く。



「ソウ、お前。正直に聞けば?マナの事心配してるって。お前の独裁者のような性格に愛想尽かされてないか心配なんだろ」



「…俺は忙しくてそんなこと考える時間はねぇよ」



「その音楽中心の思考回路、ほんと病的な。マナだって普通にデートとかしたいんじゃない?」



チラッと送られた視線に、小さく溜息を吐く。

巻き込まれたからは、何か言わなければ。




「別にいいよ。デートなんて。ソウは私の彼氏じゃないし。それに、音楽に打ち込めてるのは、ソウの1番の長所じゃない」



「唯一の、とも言えるけど」笑って答えたら、ソウに頭を軽く叩かれた。

けれどもそれはすごく優しい触れ合いで。

細められたその瞳に心臓が鷲掴みにされた。



「お前、ほんとに俺のファンな」



「最初に言ったじゃない、ソレ」



「惚れた?」



「まさか押し倒されるとは思ってなかったけどね」



いつもと変わらないテンポの会話。

それに安心したのは私なのか、ソウなのか。







「マジでーー、いつも俺の事考えてて」




フッと小さな笑いの向こう、こちらに微笑みかけるその瞳の熱さだけが私を縛りつけた。



小さく頷くことしか出来ない私は、



もう、どうしようも無くソウが好きだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る