第2話

彼らは『リスカ』と呼ばれていた。



歌う彼はソウという名前らしい。



2人とも歌うツーボーカルらしいが、私の中で残っている歌声は、ソウのものだけだった。



想像していた何倍も『リスカ』は有名で、メジャーデビューの話もきているらしい。



簡単な説明を、ライブハウスの激しい音楽に負けないように友達が叫ぶようにしてくれた。





「ちょっと休憩」



『リスカ』の出番が終わって仕舞えば、なんだかライブに興味が薄れた。

今でも収まらない胸の鼓動を意識しながら、そう友達に声をかけてライブハウスを出た。



街灯がポツリポツリと照らす道を、波の音に向かって歩いていく。



椰子の木が並ぶそこを抜けて仕舞えば、遮るもののない海風に髪がなびいた。



ザザーと波が押し寄せる音につられるように浜辺に降りる。

サンダルを脱ぎ、月明かりだけを頼りに海に寄っていった。



初めてこの海を見た時、美しいと素直に感じた。



私の地元の見慣れた身近な海とは違う。



そして、色んな海がある事に初めて気がついた。



海の音は、心を無にしてくれるから好きだ。





「1人?」



突然暗闇から聞こえてきた声に驚く。



「あー、こっち」



声に振り返ると、砂浜に座り込む人影。



「あ…」



小さく声を漏らしてしまったのは、そこにいた人物に驚いたからで。

まさかさっきまでステージで歌っていたソウの喋る姿に体に震えが走った。



「ライブ来てる子?ちょっと息抜き?」



「…はい」



「俺も。良かったらちょっと喋んない?なんか1人だと怖くなってきて」



冗談めかして震える真似をするその姿に、ライブのイメージとは違い過ぎて笑ってしまった。


人1人が座れるくらいの間を空けて、砂浜に腰を下ろした。



ステージの照明に当てられていた時はよく分からなかった髪色は、今はちょっと青味がかかった黒色に見える。

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