第31話

『弘人っ』


人通りの少ない階段のそばで


立ち止まる


『…』


振り向いて


『ねぇ…』


「…」


『…なんでスーツなの?』


私を見つめる冷たい瞳


「一周忌だったから。」


『ぁ…』


冷たい


『…おばさんの?』


色のない声


「…さぁね。」


弘人…


『…』


私は


あなたのこと


何も知らない


「なぁ、優ちゃん。」


『…』




「人を殺したこと、ある?」




あの頃


私は知らなかったんだ


私が達也の隣で


達也に守られていたあの時


苦しんで


傷付いて


絶望の中で涙を流している人がいたこと




私は





知らなかったんだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る