第26話

急に静かになる教室



弘人はまた


窓の外を見つめるから


私も弘人と同じように外を見た


『…』


校門にもたれてスマホを眺めている


昨日のあの子がいた。


『…あの子のこと、待ってたの?』


「あぁ。」


『…』


弘人がここにいてくれたのは


私と話をするためじゃなかったんだ。


『この辺で見ない制服だね。』


「横浜いた時、同じ中学だった子。」


『え?』


「親と喧嘩して、学校終わってそのまま俺んとこ来たんだよあいつ。」


無表情にあの子を見る弘人


「帰れっつっても帰んねぇの。仕方ねぇからうちに泊めてる。」


『…そっか。早く行ってあげないと、彼女待ってるよ。』


「彼女じゃねぇよ。」


『え…』


「ただの後輩。まぁ向こうは俺のこと好きみてぇだけど。」


ふっと笑った弘人


『…付き合ってない子、泊めてるの?』


「うん。」


『っ…』


「なんで?」


『…』


「…あぁ、わり。」


席を立ち上がり


「優ちゃんは純粋だもんな。」


机の上の鞄を掴む


「俺は好きじゃなくてもキスできるし」


『…』


「付き合ってない子とも寝るよ。」


『…』


私の頭にポンっと手を乗せた弘人


そんな冷たい言葉を呟いて


あなたは教室からいなくなる


そんな残酷な言葉を言いながら


泣きそうな顔をした弘人の


その切なさの意味が


私にはわからなかった


私一人になった教室は


空っぽで


静かで


冷たい。


変わってしまったもの


変わらないもの


いつまでも


心に残る


私の大好きだった弘人


もう


会えないなんて…


ガラッ


「わり、遅くなった」


『…達也。』


「…優、泣いてた?」


『…』


「…」


弘人の言葉が


心に刺さる


『…泣いてないよ…』


痛みは


消えずに


「…そう。」


私の心を占めて



『…』



逃れることを





許さなかった

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