第25話

カタン。


『っ…』


目を開けると、教室は夕日のオレンジに染まっていた


『…寝ちゃった。』


「なにしてんの。」


『っ…』


静かな教室に響く声


『…』


振り向くと


だるそうに掴んだ鞄を机に乗せて席に座った弘人が


私を見た


他の生徒はいなくなっていた


静かな廊下


グラウンドから


ボールがバットに当たる高い音が聞こえた


『…帰ったのかと思った。』


「屋上で寝てた。」


『弘人、体育祭リレーだって。』


「なんで9月に体育祭なんだよ。笑」


『夏は熱中症になる子が多いし、テストとかいろいろ忙しいから、うちの学校は9月にするらしいよ。』


「ふーん。」


興味なんてなさそうに空返事をして


頬杖をついて窓の外を見た弘人


『…中学の時は、何出たの?』


返事なんて返ってこないのに


『弘人昔から足速かったし、やっぱりリレー?』


沈黙が怖くて話題を探してしまう


『弘人と達也、小学生の頃からずっとリレーだったよね。』


あの頃はこんな沈黙さえ、心地よかった。


『達也もね、三年間ずっと』


「あいつの話すんな。」


『っ…』


「…わり。」


『…私こそごめんね。こんなの興味ないか。』


今日は少し、風が冷たい。


「お前は何出たの?」


『え、』


「綱引きとか?」


小さく笑って視線を私に向けた


そんなに温かい瞳で


『えっと…』


私を見た


『1年の時は綱引きで、2年目は玉入れでしょ。3年の時は二人三脚だった。』


「そっか。」


『二人三脚で転んじゃって、結局ビリで…』


優しい瞳で見つめられて


急に寂しくなって


私は俯いた


『…』


あぁ…


そっか。


《弘人が引っ越した後も、ずっと連絡とってた。つってもほとんど優の近況報告って感じだったけど。》


こんなの弘人は知ってる。


知ってて


それでも私の話を聞いてくれている。


『…見たかったな。小学6年生の弘人も、中学3年間の弘人も。』


「…」

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