第32話 偽る自分と素直な自分

自宅では、どうしてもいくつかのことを偽ってしまう。両親に対して、本当の自分を全て見せることができないのだ。例えば、ひとりで遊びに行く時には、「友人と行く」と言ってしまうことがある。なぜなら、ひとりで遊びに行くことを両親はあまり快く思っていないからだ。


両親は、僕がひとりで行動することをどこか不安に感じているのかもしれない。特に、遊びに行くことや休むことに対して、「そんなに休んで大丈夫か?」とか、「友達と一緒に行った方がいいんじゃないの?」といった言葉が返ってくることが多い。そう言われるたびに、僕は自分の行動がどこか間違っているのかと感じ、つい「友人と行く」と嘘をついてしまう。


実際、ひとりで過ごす時間は僕にとって大切だ。誰にも気を使わず、自分のペースで自由に動けるその時間が、心のリセットをするための貴重な時間なのだ。カラオケに行ったり、ひとりで散歩したり、カフェで本を読んだりすることで、心がほっと落ち着く。だけど、両親にそのことを素直に話すことができず、偽る自分に少し心が痛む。


カラオケは僕にとって、一つの大切な楽しみだ。月に1回、自分だけの時間を持って、歌を歌うことで心を解放する。だけど、そのことを両親には言っていない。カラオケのために仕事を休むことが、「そんなことで休むなんて」と思われるのではないかという不安があるからだ。だから、休む理由は「病院に行く」と伝えたりする。


「病院だから」という理由であれば、休むことに理解を示してくれる。実際に病院に通うことは事実だけれど、すべてが病院のためではないということが、僕自身の中で引っかかっている。そのことに、どこかで罪悪感を感じてしまう。自分の楽しみのために休むことは、悪いことではないはずなのに、なぜかそれを伝えることが怖い。


最近、少しずつ両親の対応が柔らかくなってきたこともあって、「しんどい時は休む」と言えるようになってきた。だけど、それでも「休む」と言うことに、どこかためらいを感じてしまうのだ。休むこと自体がどこかいけないことのように感じてしまう自分がいて、素直に「今日は休みたい」と言うことができない。


その反動で、外ではあまり自分を偽らないように心がけている。素直な自分でいられるように努めている。外で誰かと話す時、できるだけ自分の気持ちを正直に伝えるようにしている。自宅での自分とは違い、外の世界では、自分の思いを隠さず、ありのままの自分でいることが、心のバランスを保つために必要だと感じるからだ。


自宅では両親に対して偽る自分がいる。外ではできるだけ偽らない自分でいる。そのギャップが、時に自分を疲れさせることがある。自分の思いを隠さなければならないことが、心の中に小さな葛藤を生み、その葛藤が積み重なることで、心が重くなってしまうのだ。


どうしても素直になれないことが苦しい。けれど、それでも少しずつ自分を出していくことができるようになりたい。偽らずに、自分の思いを伝えることができたなら、どれほど心が軽くなるだろうか。そんなふうに思いながらも、なかなかその一歩を踏み出すことができない自分がいる。


それでも、外で素直に自分を表現できることが、少しずつ自分の心を軽くしてくれる。自宅では偽らなければならないことがあっても、外の世界で自分らしくいられることで、少しずつ自分自身を取り戻していけるのだ。


これからも、少しずつでも自分の思いを伝え、偽らずにいられるようにしていきたい。完璧に偽らない自分になることは難しいかもしれないけれど、それでも少しずつ素直な自分を取り戻していけたらと思う。自宅でも、外でも、自分らしくいられるように。ゆっくりと、自分自身と向き合いながら。

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