第28話 人混みという試練

遊園地やコンサート、スポーツ会場、お祭り。多くの人々が集まり、楽しそうに盛り上がる場所。普通なら、そこに行くことがワクワクする体験であり、思い出を作る素敵な時間のはずだ。けれど、僕にとってそれは、試練の場に足を踏み入れるようなものだ。


人混みがとにかく苦手だ。人が多い場所に行くと、胸がドキドキし始め、次第に汗が止まらなくなる。人々のざわめきや、あちこちから聞こえる話し声、歩く人々の流れ。それら全てが僕の感覚を過敏にさせ、まるで自分がその場に存在していること自体が耐え難いことのように感じる。


何度か、友人に誘われて遊園地やコンサートに行ったことがある。友人たちは楽しそうに笑い、興奮しながらイベントを楽しんでいた。僕も、その場の雰囲気を楽しもうと努力したけれど、周りの人々のエネルギーに圧倒され、どんどん自分の中で息苦しさが増していくのを感じた。


「どうしてこんな場所に来てしまったんだろう」。そんな思いが頭をよぎると、ますます心臓の鼓動が速くなり、汗が額から流れ落ちる。人々の楽しそうな声や笑い声が、僕にはまるで自分がその場に不釣り合いだと示す証拠のように思えてしまうのだ。


友人たちには、「ちょっと休憩しよう」と言って、何とかその場を離れることができたけれど、内心では自分の無力さや孤独感を痛感していた。みんなが楽しんでいる場所に、自分だけが適応できず、周りに合わせることができない。そのことが、僕をますます疎外感に苛まし、自己嫌悪に陥らせる。


それ以来、僕は人が集まる場所を避けるようになった。遊園地やコンサートに誘われるたび、「人混みが苦手だから」と断るようになった。断るたびに、相手がどんな反応をするかが気になり、何か理由をつけて「自分には無理なんだ」と説明しなければならないことが、また辛かった。


旅行は好きだ。新しい場所に行き、知らない景色を楽しむことは僕にとって大きな喜びだ。けれど、人混みがある場所や時間帯を避けなければならない。そのため、旅行の計画を立てる際には、いつも時間や場所を慎重に選ばなければならない。


観光地は、どうしても人が多い場所が多い。名所や有名なスポットに行けば、必ずと言っていいほど人が押し寄せている。だから、僕はできるだけ朝早く出かけたり、平日を選んだりして、少しでも人の少ない時間にその場所を訪れるようにしている。


それでも、完全に人混みを避けることはできない。どうしても人の多い場所に出くわすと、心臓がドキドキし、汗がにじんでくる。せっかく楽しもうと思っていた場所でも、気づけば早くその場を離れたいと願ってしまう自分がいる。


人混みを避けることは、周りの人たちと一緒に楽しむことを難しくしている。友人や家族が「みんなでここに行こう」と言ってくれる時、その気持ちは嬉しいのだけれど、僕は心の中で「無理かもしれない」と思ってしまう。相手の期待に応えたいという思いと、自分の体がその場所に適応できないという現実の間で、いつも葛藤している。


みんなで盛り上がる場所に行けないことで、自分だけが「普通」から外れているように感じることもある。周りと同じように楽しめない自分が、どこか欠陥品のように思えてくるのだ。けれど、無理をして人混みに行けば、心も体も壊れてしまう。


そんな自分を受け入れることは、簡単ではない。できるだけ普通に、みんなと同じように楽しみたいという気持ちと、自分の限界を認めなければならないという現実。その間で揺れ動きながら、少しずつ自分のペースを見つけるしかないのだと思う。


僕はこれからも、人混みが苦手な自分と向き合いながら、できる範囲で楽しむことを大切にしていきたい。無理をせず、自分らしくいられる場所を探しながら、少しずつ自分の居場所を見つけていこうと思う。それが僕にとっての「楽しむ」ということの、本当の意味かもしれないから。

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