第5話 家族との距離感

家族と一緒に暮らすということは、安心感を与えてくれる反面、時に息苦しさを感じることもある。僕の両親は、僕の病気について理解し、支えになってくれている。それでも、お互いに言葉にできない思いがあることを、僕は知っている。


僕の生活費は、障害年金で賄われている。働けない僕にとって、これが唯一の収入源だ。両親も高齢で、年金暮らし。僕と同じように、将来の不安を抱えながら、日々の暮らしをやりくりしている。だから、母が「お金がない」と嘆くたびに、僕の心は小さく痛む。


母は口には出さないけれど、きっと僕に対して「働いてほしい」と思っているはずだ。僕だって働きたい。でも、今の僕にはそれができない。日々、病気と向き合いながら、なんとか前を向いて生きることだけで精一杯なのだ。そんな僕の姿を見て、母は時折、遠い目をする。あの目を見ていると、僕が家族にとって負担になっていることを改めて実感する。


父は口数が少ない人だ。僕の病気についても、あまり話そうとしない。でも、それは彼なりの優しさなのだと、僕は思っている。父なりに、僕のことを気遣ってくれているのだろう。だからこそ、何も言わないでいてくれるのだと思う。でも、その沈黙の中には、彼の無力感や苛立ちも隠れているような気がする。


家族の間でさえ、僕の病気は一種のタブーのようになっている。僕が病気の話をすると、母はすぐに話題を変えようとするし、父は無言で聞いている。まるで、その話をすることで家族の絆が壊れてしまうかのように。僕は彼らを責める気持ちはない。でも、そんな空気が、時々僕を孤独にする。


それでも、両親と一緒にいることは、今の僕にとって必要だ。独り暮らしをしたい気持ちもあるけれど、病気の波が襲ってきたとき、僕は自分を支えられる自信がない。体調が悪くて、ベッドから動けなくなったとき、両親がいてくれるだけで、どれだけ救われているか。だから、今はこの状況を受け入れるしかない。


両親の年齢を考えると、この先、どうなるのかと不安になることがある。彼らがいなくなったとき、僕はどうやって生きていけばいいのだろう。お金のことも、生活のことも、全てが重くのしかかってくる。今の僕には、そんな未来を直視することはできない。でも、いつかは向き合わなければならない。そのことを考えると、胸がざわついて、夜眠れなくなることがある。


母の「お金がない」という言葉は、僕に現実を突きつけるものだ。僕の障害年金がなければ、今の家計はもっと厳しい状況にある。そう思うと、家族に対する罪悪感と、無力感で心が押し潰されそうになる。


それでも、僕にできることは限られている。毎日、できる範囲で事業所に通い、自分なりの役割を果たすこと。そして、少しでも家族の負担を減らせるように、無理をしない範囲で自分を保つこと。そんな小さな努力を積み重ねるしかない。


家族と一緒にいることは、時に甘えであり、時に支えでもある。その狭間で揺れる僕は、彼らのために何ができるのかを考え続ける。今はまだ、その答えは見つからないけれど、少しでも彼らの心を軽くできるように、少しずつ前に進んでいきたい。生きづらくても、生きなければならない僕の暮らし。その中で、家族との距離感を探し続けるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る