第11話 到着

 目の前の光が静かに消えていく。転移中はあまりの光の強さに目を瞑っていたローラだったが、目を開くとそこには先程とは違う光景が広がっていた。転移魔法陣の両側に大きなクリスタルが鎮座しているのは同じだが、クリスタルの色が違く、近くにいる兵士の甲冑もデザインが違う。そして、管理所の風景も似て非なるものだった。


「ローラ様、ここが私の母国、サイレーン国です」


 ヴェルデが力強くそう言って、ローラの手を取り魔法陣の外へ出る。ローラがキョロキョロと辺りを見回すと、近くに騎士が一人立っていた。管理所の兵士とは見るからに違う、位の高そうな騎士だ。


「ヴェルデ様、お迎えにあがりました。ガレス殿下がお待ちです」


 騎士はそう言って静かにお辞儀をすると、横目でローラを一瞥した。その瞳には何かローラを物色するかのような感情が込められていて、ローラは思わずひるみそうになる。だが、ローラは過去に妃殿下になるはずだった人間だ、様々な思惑の視線をたくさん受けてきた経験と対応力がある。すぐに姿勢を正し、騎士に優しく微笑んでお辞儀をした。


 騎士はそう返されるとは思わなかったのだろう、ローラの態度に目を見張った。そして、そんなローラを見てヴェルデは感心したように口の端を上げ、騎士にローラを紹介した。


「こちらの女性は、私の婚約者となる人だ。ガレス殿下にはすでに手紙で詳細を伝えてある」

「……ヴェルデ様の、こ、婚約者!?……っ、失礼しました。そうであれば問題ありません。こちらへどうぞ、王城までご案内します」


 騎士は驚いたように声を上げたが、すぐに真顔に戻ってヴェルデたちにお辞儀をする。


(ヴェルデ様に婚約者ができることはそんなにも驚くことなのね……本当にヴェルデ様は今まで結婚する気がなかったんだわ)


 騎士の態度を見てローラが驚いていると、ヴェルデはそっとローラに耳打ちをする。


「ローラ様、隣国から来た人間ということで今後いろいろと嫌な思いや不思議な思いをすることもあるかと思いますが、私が絶対にローラ様をお守りしますので、気にしないでくださいね」


 そう言ってヴェルデは微笑んだが、その微笑みがあまりにも美しく妖艶で、ローラは思わず胸が高鳴った。


(さっきまであんなに可愛らしかったのに、こんなにも妖艶で頼もしくなるなんて、ギャップがすごすぎるわ……まだまだ底が見えないお人なのね)


 胸の高鳴りが早くおさまりますように、とローラは胸の前で両手を握りしめた。




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