第11話

「………………

 ……クローブ」

「……パット……!」


 仕事の傍らで実ノ里と打ち解ける手段を考える中、いきなりやってきた兄にクローブは絶句する。


 ジェフリー・パトリック・オブライアン。


 家族は皆、父親が作ったJ&Jという企業の要職に就いているが、この兄は牧師だ。

 出生地がアメリカなためアメリカ国籍を持ち、アメリカでプロテスタントの新教派を作った人物で、クローブもその教派に入る予定だ。


「まだ私たちの洗礼を受けていないので破門にできませんが、普通なら破門にしているところです!!」

 妻帯者で妻も牧師だ。教派のことは妻に任せて飛んできたらしい。


「言ったの!?」

 原田を振り返って訊くと、

「私の手には負えませんでしたので」

 冷たい目で言われる。


 この次兄には勝てない。末っ子の可愛さを使おうなどと到底思えない人物だ。


「どう責任を取るつもりですか!?」

「ちゃんと結婚する!!」

「いい加減にしなさい!!」

 クローブの胸倉を掴んで怒鳴ると、簡単に手を放し、

「お詫びして話し合います。クローブは入らないように」


 言って、隣の実ノ里の部屋のドアをノックする。


「高崎実ノ里さん。

 この度は大変申し訳ないことを致しました。

 私はジェフリー・パトリック・オブライアンと申します。この愚弟の兄です。

 今後のお話をしたいので、開けていただけませんか?」


 ゲール語(アイルランド語)から日本語に切り替えて言うジェフリーの姿に、クローブはドアは絶対に開かないと思った。だが――


 ノブが回り、どうにか一人分扉が開く。

 ジェフリーはクローブをちらりと睨むと、静かに入っていった。

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