第7話

狭い部屋はごちゃごちゃとしていた。

「……全部手芸道具……収納と広さがないんだろうね。広い場所に引っ越せばいいよね」

「坊ちゃん? トマトとクローバーの水やりに来ただけですよ?」


 付けっ放しのほうが節電になるからか、部屋には軽く冷房が入ったままだった。

 と、部屋の隅でこちらに警戒の目を向ける者がいた。


「……トマト……」

 鳥籠には、【トマトさんのお部屋】という札が付いている。

「……文鳥だったのか……」


 白いまだら羽根が目立つ、ごま塩の桜文鳥が【トマトさん】らしい。

 幸いまだ元気なので、籠の傍にあった餌を入れてやると警戒しつつも食べ始めた。

「お腹すいてたんだね」

 だから実ノ里は死んじゃうと慌てたのか……と呟き、ベランダに出てみると萎れたクローバーの鉢が3つほどあった。


「全部三つ葉……シャムロックだね」

 よく見ると純粋なシロツメクサではなく、赤い葉のものや模様入りの、シロツメクサを品種改良して作られた品種のようだ。


「さ、荷物を全部ウチに運ぼうか」

「……坊ちゃん……」

 トマトさんの籠を持ってクローブが平然と言った言葉に原田は、

「文鳥とシャムロックはここに置きっぱなしにはできないので仕方ないでしょう。


 で・す・が・!

 部屋のものを運ぶというのはどういうことでしょうか?」


「実ノ里は俺のところに引っ越すんだよ。ね、トマト」

「いい加減にしなさい!」


 じゃあ実ノ里の許可をもらってくる、と、クローブは大人しく引き下がった。

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