第4話

「あたらめて、初めまして!

 俺、クローブ・オブライアンって言います!」


 医院から出てきた彼女の手をしっかりと取ると、

「坊ちゃま、このコロナ禍でいきなり握手はないでしょう」

 原田が離れるように促してくる。


「いい加減、坊ちゃまはやめてよ! 俺、もう18だよ!」

「いいえ、坊ちゃまが御生まれになった時は日本の成人は20歳でした! 20歳まで坊ちゃまと呼ばせていただきます!」


 二人のそんなやり取りを見て、実ノ里はもう去ろうと歩き始めていた。

「あ、待って!」

 クローブは彼女の手を再び握り、

「俺とお付き合いしてください! 一目惚れしました! もちろん結婚前提で!!」


 実ノ里は、二人が乗っていた超高級車に目をやり、


 また遠くに行こうと歩き始めた。


「待って! 待ってください!」

「坊ちゃん、いい加減にしなさい!」

 原田に抑えられ、振りほどこうとしている間に彼女は横断歩道を渡っていく。


 原田を振り払った時には、実ノ里は向かい側の道路のバス停に居た。

 ――バス、来るな!

 横断歩道の信号が変わるのを待つ間にそう念じ続け、ついに彼女のもとに辿り着いた。


「あの、俺、本気です! 付き合ってください!!」

「私……41ですけど……」

 こういえば引き下がるだろうと実ノ里は切り札を出したが、

「気にしません!!」

 相手は一向に怯まない。


 このままバス停に居れば、この人は離れない。

 そう判断し、日傘を拡げて歩き始める。


「あ、待って待って! 送ります! お家どちらですか?」

「坊ちゃん! いい加減にしなさい!」

「原田うるさい! 邪魔しないで!」


 今日はバス停から先を歩くのみの予定で、ステンレスボトルを持ってきていない。

 自販機で水を買うという手もあるが、自販機の前で立ち止まったらこの人が何か奢ると言い出すのではないだろうか?


 とにかく振り切れるまで歩こうと、歩を進め――


 ――視界が、ぐらりと揺れた。


「ミノリ!?」

 クローブが抱きとめる中、彼女の意識は闇に落ちた。

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