Shamrock ~三つ葉と永遠を~

副島桜姫

1,真夏の出会い

第1話

1、真夏の出会い



 2022年8月。


 毎年、例年にない猛暑、酷暑と聞いている気がする夏だ。温暖化は関係するのか、素人の実ノ里には分からない。


 バスを降りてから日傘をさして歩き、目的の医院に入ると冷房の入った空気にほっとする。

 空いていることの多い午後を狙ったので、目論見通り待合室の人は少ない。


 受付に「内科お願いします」と診察券と生活保護診療依頼証を出し、空いていた一番前の椅子に座る。

椅子は長椅子だが、一人分置きに、「感染症予防のために間隔をあけてお座りください」という札が置かれていて2019年以前とは違う。


 鞄から取り出した電子書籍リーダーで本を読んでいると、隣――正確には二つ先――に座る人がいた。


 この長椅子は一番前なので便利がいい。後ろの座席に座るより、誰かの横になっても座ることを選ぶ人は多いので、実ノ里は別に気に留めなかった。


「……真珠、綺麗ですね」

 かけられた声に慌ててそちらを向けば、若い男性だった。

 顔を上げずに視界に入ったのが、ロングスカートと白い髪だったので、ご高齢の女性かと思っていたが……スカートを履いて白い髪を長く垂らした、褐色の肌の男性だった。


 ――留学生だろうか。日本語が流暢だ。


「ご主人からですか?」


 動揺した実ノ里は、やっと左手の薬指の真珠の指輪のことを言われていると気が付いた。

「……いえ、自分で買いました。主人どころか彼氏も居なくて……」

「そうですか。失礼しました。

 あんまり綺麗だったので」


「花珠です。宇和島の」

 やや得意げに言った実ノ里に、男性は、

「なるほど、日本のスピカですか」

 じっと左手に視線を注いでいる。


 ――真珠に興味がおありですか?

 そう聞こうかと思ったが、

「コウサキ、ミノリさーん」

 看護師が実ノ里の名を呼んだ。


「すみません、失礼します」

「こちらこそ、いきなり失礼しました」


 男性とはそれっきりの縁だと思っていた。

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