第33話

どうやら廃屋のようだった。塗装の剥げた木の板、打ち付けたれた窓、もはや穴でしかない扉。


 その廃屋の中から、十二人ばかりの気配が感じられる。おそらく、『禁忌』の部下が待機しているのだろう。


 そして、その廃屋の前に、彼は立っていた。 黒い髪を後ろに撫でつけた、三十代後半の、身長の高い男。身に纏う黒い衣服に黒いジャケット、グローブ、ブーツ……一見して丸腰である。


 『禁忌』ことドルティオーク。それが、彼を示す言葉だった。


 呪法の光で辺りを照らし出し、降りしきる雨に濡れながら、彼は立っていた。


「隊長、ただいま戻りました」

 セイズが、森から廃屋へ向かいながら、言う。

「残念ながら、例の予言者の屋敷には向かっておりません」


 命令無視とも取れるセイズの発言に、彼は怒った風もなく、

「事情は分かっている。セイズ、よくやってくれた」

 逆に労いの言葉をかける。


 セイズは、恭しく一礼し、身を横に引く。その後ろから、小柄な人影が現れる。


 細い紐でまとめた長い金髪、厚手のローブに、上から羽織ったマント、そして、金色の双眸。全身から雨粒を落としながら、ゆっくりとドルティオークに近づいて行く。


 そして、彼との間に五歩ほどの距離を残し止まった。

「四年ぶりだな。ドルティオーク」

 感情を押し殺した声で、そう呟く。


 一方、ドルティオークの方はというと、両手を広げ、歩み寄り、その小柄な身体を抱き締め、

「リーゼ。生きていてくれたか」

 囁くように、言う。


 一瞬、二人の間に沈黙が落ちた。だが――


「私に触れるな!!」

 声と共に小柄な人影――ティーンが、剣を抜き放ち、大きく振るう。


 寸前で抱擁を止め、後ろへ下がるドルティオーク。


 ティーンもまた、後ろへ身を引き、

「四年半前に滅ぼされた一族の恨み! 今ここで晴らさせてもらう!」

 剣を構えながら、叫ぶ。


「――絶対に、手を出すな」

 ドルティオークは、傍らに立つセイズと、廃屋を見やり、凍るような声でそう言った。



◆◇◆◇◆

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