第29話

二人と一羽――ティーンとガーネットとスペサルタイトは、夜の森の中を進んでいた。こちらに向かって来る、セイズの気配を目指して。


 暫く傍観を決め込んだ二人が突然動き出したのは、向こうに動きがあったからだ。向こうから一人――気配からしてセイズに間違いないのだが――が、こちらに向かって動き始めたのである。


 明かりは二つ。共に呪法で生み出したもので、一つは二人の側を漂い、もう一つは数メートル先を先行している。


 雨が木々を叩く音に混じる足音は、一つのみ。ガーネットは、いつもの如くスペサルタイトに乗っていた。どうやらこの鳥、翼が濡れても平気なようである。


 三十分も進むうち――変化が起こった。先行する光が止まったのである。それに照らし出されるのは、一人の男。


 中肉中背、雨に濡れた派手なローブ、雨粒のしたたり落ちる、左耳の大きなピアス。


 間違いなく、二人の呪法院での学友・セイズだった。呪法の明かりに照らし出され、歪んだ笑顔が不気味に浮かぶ。


 雨粒が木々を叩く音だけが、暫く響く。


「…………やれやれ。

 予言者の屋敷の状況を見てくるように言われたんだけどね……」

 先に口を開いたのは、セイズだった。


「お姫様のお越しとあっちゃあ、そっちを優先すべきかな?

 ねぇ、リーゼ?」



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