第8話

最初に動いたのは、ティーンだった。


 大きく横に飛ぶと同時に、懐から取り出した針を数本、ガーネットに向かって投げる。

 後ろに身を引き、それらを躱すガーネット。


「炎の守護者よ!」

 ガーネットの声と共に、炎が螺旋を描いてティーンに襲いかかる。


「……だからやめとけって言ったのによ……」

 見物しながら呻いたのはウォルトだ。


 今、ガーネットが使ったのは、呪文の短縮詠唱というもので、よほど高位の呪法士でないと使えない。短縮詠唱は、呪文の一部だけで呪法を発動させるもので、無論、発動までの時間は驚異的に短縮されるが、その反面、効果が限定されてきたり、呪法の威力が弱まったりする。慣れていない者が行うと、期待していた効果とは全く逆の作用を及ぼしたりもする。


 もっとも、短縮詠唱に長けた者なら、無言で呪法を発動させることもできるが。


 だが、ガーネットは短縮詠唱には充分に精通していた。どのタイミングで呪文のどこを詠唱すれば何が起こるか、極めて正確に予想出来るのである。呪法院に来たばかりのティーンは、彼女に比べれば殆ど素人の筈。特級戦技士の技術があると言えど、分が悪すぎる。


 だが――

「壁となりて護れ!」


 同じ短縮詠唱でガーネットの呪法を防いだのは、ティーンだった。間を置かず、


「雷光よ、撃て!」

 雷光を放つと同時に、自らも剣を抜いて斬りかかる。


「くっ!」

 大きく身を引いてそれらを躱すガーネット。が、次の瞬間には彼女の腕に鎖が絡み付いていた。

 鎖は――ティーンのローブの袖口から伸びている。

「……本気……出すわよ」

「そうしてくれ」


「金剛の刃よ!」

 鎖の戒めを解くと同時に、側までやってきていた鳥――スペサルタイトに乗る。


 スペサルタイトの背でこちらを見下ろすガーネットを見上げ、ティーンは次の術を放つ。

「我が名により汝を呼ばん!」

 ティーンの真横の空間が歪み、大型犬ほどの大きさの翼竜が現れる。


「行け!」

 ティーンの声に応じ、翼竜が舞い上がる。それとほぼ時を同じくして、上から氷の槍が降ってくる。


「炎よ、壁となれ!」

 蒸気となって消える槍。上からは、翼竜の断末魔が聞こえた。



◆◇◆◇◆

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