第4話
「
アカデミーの敷地の隅にある、小さな崖の上に腰を下ろし、ティーンはそう呟いた。辺りに人の気配は無い。隣に座る友人に顔を向け、尋ねる。
「……知っているか?」
ウォルトは、暫し視線を宙に漂わせてから、
「……ああ、思い出した」
ティーンの方を向くと、彼の目に視線を止め、続ける。穏やかな笑顔を浮かべているものの、彼の青い瞳には、暗いものが宿っていた。
「確か、四年ぐらい前にあの男に滅ぼされた村の話だろ? なんでも、村人全員が、神経が高ぶると目が金色になったって言う……。
噂じゃあ、その目を見ると呪われるって話だったが……」
「飽くまで噂だった」
ティーンは瞳を閉じ、俯きながら、呟くように言った。
「一部では、魔眼には呪殺効果があるとも言われていた。だが、それもただの流言……。実際には、ただ虹彩の色が変わるだけで、何の力も無かった……」
俯いているので、その表情はよく見えない。しかし、僅かに覗く彼の口は、唇を噛み締めていたし、握り締めた彼の拳は震えていた。
「……だが……四年二カ月前……奴は来た。 そして、殆ど無力に近い村人を惨殺したんだ。一族は皆、滅ぼされた……」
そう言って、不意にティーンは顔を上げた。ゆっくりと、その双眸を開く。
――彼の目は、金色を呈していた。
「お前……その目……」
「――そう。私はその一族の……レクタ族の生き残りだ。
奴を、絶対に許さない。この手で一族の仇を取る……!」
そこまで言うと、ティーンは再び瞳を閉じ、軽く嘆息する。次に目を開けた時には、彼の瞳は青に戻っていた。また、穏やかな笑みを浮かべると、
「……そういうことだ。私は仇を取るための力が欲しい。戦技院や呪法院へ行くのは、そのためだ」
言って、身体を後ろに倒し、寝転がる。
確かに、戦技士や呪法士になれば、同盟各国で様々な優遇を受けることができる。警察以上の逮捕権も得られるし、凶悪な犯罪者なら、発見次第殺害しても問題ない筈だ。
「……オレには想像もつかないような世界だな……」
暫くしてから、ウォルトがぽつりと呟いた言葉に、ティーンは小さな笑い声を洩らす。 「どうした?」
「いや……」
問われ、答える彼の顔は、こころなしか、普段よりも晴れやかに見えた。
「このことを人に話したのは初めてなんだ。……スッキリしたよ」
「……そうか……」
空を眺めるティーンの目には、空の青と、流れ行く雲が映っていた。
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