28・隠し事は無意味だから…

第28話

「で、何で泣いてた?」

「ゔっ…」


そこに戻るの?


“そこ”に戻らなくても良い気がするけど紅露の場合“そこ”に戻らないといけない…?


なら私は作り笑顔で乗り切る。


公爵令嬢として…殿下の王妃候補として…。


「紅露、この本は何?」

「これは、リリナーアが勉強に追いつくの大変だと思ったから持ってきた」


そう言って紅露は本を開いて見せてくれた。


「紅露のいたずら書き付き?」

「違げーよ。いたずら書きじゃねぇよ」


クスクス笑って端に書かれていた絵を見て笑った。


「笑ってる方がリリナーアは良いよ。俺に隠し事は無意味だからな」

「隠し事なんてしてないわ。ちよっと…手こずってるって!」

「ほらな。リリナーア…俺が側にいるだろ?」

「…うん」


頭をポンッとされて小さい子みたいな気持ちになる。


「…刺繍が記憶の中では縫えてるのに…実際手に取ったら縫えないの…」


そんな事言って紅露に嫌われたくないけど隠してたっていつかはバレちゃう。


「そっか」

「!!」


呆れた?


呆れて私を嫌いになるの?


そんなのは嫌だから紅露の腕を掴んで慌てて言い訳じみた事を言った。


「紅露!私本当に刺繍は好きなの!嘘じゃないわ!記憶の中にあるのに縫えないだけなの」


嫌いにならないで。


紅露とまだ偽装恋愛していたいの。


としてまだ紅露の側に居たい!


「それは辛かったな。刺繍本当に好きだもんな。

やり方分からないなら携帯でやってる動画見れば良いんじゃないか?」

「えっ…?」


紅露の提案に言葉を失った。


「嫌いに…なってないの?」

「なんで嫌いになるんだ?その答えに行き着く事を教えて欲しいよ」

「……紅露!」


無意識に紅露の背中に手を回して胸に顔を埋めた。


「かっ…!リリナーアっ」

「紅露。私、紅露の隣にいつまでも居てもいいように頑張るから」

「……っ」


紅露の匂いが鼻腔にくすぐる。


安心する匂いが私を落ち着かせてくれる。


「…楽しみにしてるよ。でもそんなに急がなくても良いよ。ゆっくり俺に見せて」


紅露も私の背中に手を回して無意味に紅露を抱きしめていた事に気付いた。


「あっ…!私っっ」

「積極的なリリナーア、好きだよ」

「……っ」


その言葉はに言ってる言葉じゃない。


私の中にいるさんに言ってる言葉だと認識しなくちゃいけない。


「紅露、おばさんが待ってるんじゃないの?」

「母さんならゆっくりしてるよ。でも、帰るよ」


紅露はそう言って私から離れた。


身体が離れて寂しく感じてしまう気持ちは知られちゃいけない。


これは私の気持ちの問題だから。

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