第39話

「……うう……」

 前に使っていたクッションは呪いを浴びて処分されてしまったが、予備がございますと笑顔で侍女が持ってきてくれたクッションに背中を預けて、ファムータルは泣きたい気分になっていた。


「拷問だ……生殺しだよ……」


 兄の寝台と兄の部屋を使っていることはすぐに分かったが。

 まさかこの部屋に彼女の寝台が運び込まれ、同じ部屋で寝起きしていたとは思わなかった。


 兄にどういう意図なのか訊きたいが、生憎兄が帰ってきている時に起きていた試がなく、ここ数日彼女の寝息を聞きながら寝ることも多い。


 確かに最初の夜に人払いをしてまで彼女と一緒の時間を望んだが、あとは別室のつもりだった。


 そもそも何故兄の部屋を使っているのか。

 兄の邸も部屋は多数ある。別の部屋ではいけないのか。


 今もふと目が覚めて辺りを見回すと、あられもない寝姿を見せている彼女が視界に入り、反射的に興奮して目が冴えて起きているという次第だ。


 と、そこで気づく。

 ――そろそろ、兄様が帰っていらっしゃる頃だ。


 予告なく出向いた先で泊っているということもあったが、兄は王宮本殿の監視を続けるためにあまり多く邸を空けない。


 もう少し、頑張って起きていれば……


 生殺し生活ではあったが、兄と祖父の魔力に呼応してファムータルの魔力も回復してきている。体力も戻りつつある。


 兄を待って時間が過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る