第36話

 丁鳩・フォン・ディ・エルベット。

 意味するところは、エルベットの王族である丁鳩。


 本来なら最初に【本名】である【レヴィス】がつくのだが、丁鳩は魔国からエルベットに渡り、エルベットの客員王族として洗礼を受けた際、本名を棄ててしまった。

 呼び名が御名しかなくなったので、皆が御名で呼ぶ。どうしても御名が恐れ多いというものは、【フォン・ディ・エルベット】(王族殿下)と呼んでいる。


「そうだったんですか……

 あ、お義兄様はご公務でいらっしゃいません」


 慌てて、先程の問いの返事を口にする鈴華に、

「公務は終わったはずだから……浄化に行ってんのかな?

 礼竜はどうだ?」

「先程、少し意識が戻りました。今はまた眠っておられます」

「じゃあ、オレは家令に言って入れてもらう手続きしてくるわ。

 また会おうな」


 丁鳩そっくりの仕草で鈴華の頭を撫で、にこにこと手を振りながらサティラートは正門のほうへ向かっていく。

「礼竜のとこで待ち合わせ! な?」

「は、はい!」


 丁鳩に似ているとはいっても別人なところのあるサティラートを見送り、鈴華はファムータルが寝ている丁鳩の居室に向かった。

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