第35話

「……あ、お義兄様……」

 義祖父に慰められた後、まだ気持ちが落ち着かず丁鳩邸の中庭に出ていた鈴華は、やってくる人影を見て呼びかけようとし――

「――え?」


 ――違う。

 よく似ているが丁鳩ではない。


「新人さんか? レヴィスは居るか?」

 気さくに話しかけてくる丁鳩の髪を短くしたような偉丈夫は、鈴華を観察し、

「とても小柄、赤毛、その肌の色……もしかして、お前さんが鈴華か?」

 人懐っこい笑顔で聞いてくる。


「は、はい!

 あ、もしかして……サティラート様ですか?」


 丁鳩が、自分にそっくりなサティラートという男が来ると言っていたことを思い出しながら訊くと、

「おう! お前さんのことはレヴィスから聞いてるよ」


 目の前の人物が丁鳩の異父兄だと分かって安堵した鈴華は、次の疑問にぶつかる。

「……あの……レヴィス様というのは……」

 響きからして男性名だが、執事や使用人など一通り紹介された鈴華の記憶になかった。

「もしかして、こちらにいらっしゃる騎士のかたですか?」


 騎士や兵士は多く入れ替わっているので、紹介してもすぐ居なくなるからと名前を教えてもらっていない。


「お嬢がたが丁鳩って呼んでる男だよ。丁鳩は御名だ」

「……え――?」


 ということは、今まで王族を御名で呼んでいたのだろうか?


「ああ、畏まるな。

 あいつは丁鳩って名前以外、捨てちまった。

 だからみんな丁鳩って呼ぶんだよ」

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