第13話
「丁鳩が礼竜を保護し、王宮で一番信頼していた乳母に預けて匿ってくれていた」
丁鳩は、自分の皿の焼き菓子を一つ口に入れ、
「あれは危なかったなぁ。
あの
まあ、幸いなのが、すっかり頭逝ってて、処刑場にライを置いたら満足してフラフラ王宮に戻ったところだな。
誰もいなくなってからライを回収したら……肌が爛れてた。呪王が焼いたのかと思ったが、肌から呪いの気配を感じなかったから連れて帰った。
その時が初めてだったな。魔力で人を治癒したのは」
と、丁鳩は焼き菓子を一つ彼女の口元に持って行き、
「さっきから全然食ってねぇな。
もっと食いやすいもんがいいか?」
「あ、いえ……今はお話を聞きたいので。すみません」
「先程の食事は食べているし、問題はないだろう。
陽に当たると肌が爛れる礼竜の体質だったわけだが……丁鳩の治療と、丁鳩の乳母が与えてくれた山羊の乳で、私が着く迄礼竜は生き延びた。
そして私は
この時連れていたのは、数名の騎士と合流した礼竜、丁鳩、丁鳩の乳母と兄のみだったという。
「義祖父様が、ライがミルクなんか絶対もらえないことを察して、腕の立つ授乳中の女性騎士を連れてきてくれてて、ライの体質もすぐに見抜いて魔力で対策してくれて……俺は兄貴と肩を寄せ合ってた。
何しろ、当時の俺の世界は狭かったからな。
恐ろしい
今度は丁鳩がロケットを出し、中の写絵を映す。
年配の女性が――おそらく幼いファムータルだろう――赤ん坊を抱いて笑っていた。
「正気を失ってた筈の
兄貴はただの子ども、俺は王族でも魔力の使い方を知らない足手まとい……精鋭の騎士団を連れてたって言っても、義祖父様は苦戦した。
そして――あの
エルベット王が
丁鳩の乳母もファムータルも即死した。
だが――ファムータルの致命傷は、背中の傷ひとつのみだった。
エルベット王と丁鳩が魔力を残らず注いだお陰で、ファムータルは息を吹き返したのだという。
だが、ファムータルの背中には禍々しい呪いの傷が残り、13歳に成長した今でも形容できない激痛で彼を蝕んでいるそうだ。
その後、エリシアの妹が合流し彼女の魔力を使って彼らはエルベットに帰国した。
「お姫。
顔が暗いぞ。食え」
「あ、はい……」
勧められるままに焼き菓子を頬張りだした彼女を見て丁鳩は微笑み、
「甘いもんは気分が沈んだ時にいいからな。
……身体鍛えるときにも役に立つけどよ」
必死に食べる彼女を、まるでリスのようだと思ってしまう。
「昨夜、ライの菓子食ったか?
あいつの美味いだろ?
あいつは王族に産まれなかったら、菓子屋か花屋に産まれてたな」
ちょっと待ってろと言って席を外した丁鳩は、籠を持って戻ってくる。
「昨日、ライがお前に差し入れようと持ってきて落としたんだけどよ、無事なの集めといた」
「……うわぁ……」
見た目から、普通の菓子とは段違いだ。可愛らしくて食べるのが勿体ない。
「ほら、お姫のだ。食ってやったらライも喜ぶから」
言われるまま一つ取って口に入れると、なんとも幸せな気分になる。
「美味しい……優しい味……」
昨夜は感覚が異常で分からなかった味だ。
「あいつ、エルベットに帰国すると決まって、菓子のコンテストに出すからな。
しかも一般市民に混じって。
菓子職人や趣味の作り手のファンも多い」
「あの、ところで、さっきから気になっていたんですが……」
幸せな菓子で口の滑りが良くなった彼女が問う。
「【兄貴】とおっしゃっていましたが、丁鳩殿下の上に、もう一人王子殿下が?」
「ああ、王子じゃない」
丁鳩は軽い調子で、
「俺の異父兄……父親違いの兄だよ。
俺と兄貴が異父、俺とライが異母。
つまり、ライには血が繋がってない。
それでもライは、
丁鳩の母は、
それを
妻を取り戻しに行った夫は
だが、丁鳩もファムータルの祖父も、彼女にそのことは言わなかった。
単純に、今彼女に伝える惨い事実を減らしたかっただけだ。
「サティラートっていう俺そっくりの奴が時々来るから、見れば分かるさ」
写絵を出そうとしたのだろう。またロケットを出したところで、遠慮がちに声がかかる。
「丁鳩殿下。お話し中申し訳ございません。
処理していただきたいことが……」
「ん。分かった。
俺ちょっと外れるから、話進めといてくれ」
兵士について、丁鳩は行ってしまう。
「では次は……礼竜の体質の話でもしようか。
あれは、エルベット王室の罪だ」
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