第31話

自分勝手すぎる──…

奈都じゃなくて、自分自身が。



「…ごめんなさい……」



素直に謝れば、奈都は慌てたように近づいてきた。



「ち、違うよ?怒りたくて言ったわけじゃ。ただ想う気持ちが人によって違うって話で…!ウミくんがヒカルのこと好きなのも分かってる!ルイくんが嫌いなことも!」


「つらかった?」


「え?」


「ヒカルにやられた時」



何を聞いたんだと思った。恐怖がまだあるのに。辛くないわけなんかない。



「…うん、でも、途中からルイくんにバレる方が怖かった…」


「ルイに?」


「それをヒカルが教えてくれた」


「…」


「だからヒカルのこと怖いけど、嫌いにはなれないんだよね。ヒカルの辛い気持ちも、分かってる分…」




ヒカルの辛い気持ち…。



「ごめんね」



なんで、奈都が謝るのか分からない。

悪いのは俺なのに。自分の気持ちだけを押し付けて…。



「ずっと待つの…?」


「ルイくんを?」


「うん…」


「待つよ、ルイくんのこと好きだから」




笑顔でそう言った奈都に、──大黒のことを相談できないと思った。


──…奈都は、巻き込めない。


そもそも、あのルイを受け入れるって、心広い奴にしかできない。




「ヒカルには、言わないで…。今日あったこと」


「…ウミくん…」


「俺にとっては、大事な兄さんだから…心配かけたくない」


「うん」


「ルイ…」


「え?」


「電話、してるって聞いた。今どうしてんの?」



まさか俺が、ルイのことを聞くとは思わなかったのか。奈都は穏やかに笑った。



「はやく私に会いたいって」

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