第30話
酷いことを言った。
自覚はあった
こんな事、言うつもりなかったのに。
どうしてもルイの話になると──理性が効かない。嫌だ、嫌だ、理性が効かないとかルイと同じ。気持ち悪い、俺はルイみたいになりたくない。
酷いことを言ったのに──…
奈都は「そうだよ、いかれてるね」と笑う。
「私も、ルイくんも…」
「…」
「でも、ウミくんは知らないと思うけど…。私にとってはヒカルの方がイカれてた。ヒカルの方がルイくんよりも怖かった時があった…」
「……は?」
「ルイくんと別れさすために、私にいっぱい酷いことしてきた。無理矢理抱かれたこともあった…」
酷いこと…?
ヒカルが奈都に?
無理矢理抱いた?
まさか、ありえない。
ヒカルは普通が好きなのに。
普通じゃないことをするはずないのに。
「私の事好きだったから、ルイから離そうと必死だったって、教えてくれたけど…」
「…」
「怖かったよ、すごく」
「…」
「今はもうヒカルの気持ちを知っているから、普通に接してるけど。──怖かった、いつ次襲われるんだろうって…本当に怖かった…」
「…」
「ルイくんにバレて、」
ルイに…。
だったらヒカルの首を締めたのは…
ヒカルが奈都に手を出したから?
ありえない、はずなのに。
嘘じゃないって分かる。
「…ほんとに、ヒカル…あんたのこと襲ったの?」
「うん」
「抱かれたって、…最後まで…」
「そうだよ」
「──…」
「だから私の中では、どっちかっていうとルイくんよりもヒカルの方が怖いのかもしれない」
ヒカルの方が、奈都にとっては怖い…
「ルイくんは…無理矢理は、なかったよ」
「……それが、ヒカルを、選ばなかった理由?」
「うん、元々、ルイくんが大好きってのもあるけど」
「…」
「1度得た恐怖は、トラウマ。本当に苦しいから…」
「ルイに、殺されそうになっても、そこに恐怖はないの?」
「怖いよ、でも、その恐怖を受け入れることができた。ヒカルは…受け入れられなかった。もうヒカルは…私に手を出さないって分かってるのにね」
奈都の言葉に、返事をすることができなかった。
「だから、ウミくんの気持ち分かるよ。全部とは言えないかもしれないけど、少しだけなら」
「……」
「ウミくん、私の事良く思ってないよね?」
奈都は、ゆっくりと笑う。
「私がヒカルと付き合ったら、ウミくんは嬉しい?」
「…それは、」
嬉しくない。
喜べない。
喜べるはずがない。
奈都に、ずっと──永遠の恐怖を与えるってことなのに。
けど、ヒカルのことを思えば──。
ヒカルのことを思えば、奈都の気持ちを無視する?俺がルイを思うみたいに、ヒカルのことを怖いって思ってるのに?
「だから、ごめんね。私はルイくんが好きだからヒカルとは付き合えない」
「……」
「今はもう、普通に話すけど、そこに愛があるわけじゃないよ」
愛……。
「……でも、ウミくんが何か悩んでるなって思ったら、ヒカルに相談するかもしれない」
「…」
「怖いと思ってる男に、ウミくんが心配だから話しかけるの」
「…」
「普通だと思う?ウミくん」
「…」
「それとも私って、いかれてるかな?」
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