第3話

ヒカルの部屋から出て、自室に戻ろうとすれば、下の階から何かが落ちる音が響いた。

いや、落ちる音じゃない。

何かが倒れる音。

この家に、倒れるものといえば、ほぼ高確率で──母親しかいなく。

急いで階段をおりれば、思った通り、リビングの中で母親が転んでいた。どこかに打ったのか、腰あたりを撫でながら蹲っていた。


その近くには、大きなカバンがあって。



「大丈夫?!」



急いでかけよれば、痛そうな表情をしていた母親の顔が、心配かけまいと表情を柔らかくした。



「ウミ…、大丈夫。少し転んだだけ。ごめんね」


「足は?」


「平気…、荷物を移動させようとしたんたけど、ちょっとバランス崩しちゃって」


「そんなの、俺に言ってくれればいいのに。重いものは持つなっていつも言ってるだろ」



ごめんね、と、謝る母親は、1人では立てない。

怪我の後遺症。

母親の体を起こし、支えながらソファへと誘導する。やっぱりどこか痛めたのか、腰あたりをさすっていた。


その最中に、音にかけつけたヒカルも、「大丈夫か?」と母親に聞いていて。



「──これ、ルイの荷物?」



カバンを見たヒカルのその言葉に、どうして母親が俺に頼って来なかったのか分かった。

母親は、俺がルイを怖いのを知っているから。

だから頼ってこなかった。



「そう、着替えとか…足りない分」


「俺がするわ、あと何必要?」


「ううん、もう終わり。玄関に置いとくだけ」


「置いとくわ、父さんは?」


「ルイの事で、世那さんに会いに行ってる」



母親とヒカルの会話を聞きながら、やっぱり俺はルイがいなくなってほしいと思った。



過去──、ルイの性癖は、俺を殺そうとした。

その時、庇った母親が上手く歩けない後遺症を持つことになった。


そんな母親は、今でもルイを大切にしてる。


というよりも、我が家は〝ルイ中心〟でまわっている。



全てがルイ。


母親も、父親も、──周りの大人たちも、──本当の父親も。


……──みんな、ルイの事だけを考えている。







ねぇヒカル。


お願いだから、ヒカルはルイを受け入れないで…──

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