第28話

「気をつけるもなにも、知り合いでもないから」

「強気も良いけど、向こうはそれでもちょっかい出してくるかもよ」

なにが言いたい。

天音のまわりくどい言い方が気に食わない。


「里奈子、聞こえない?」



ーーーガシャンッ!!!



微かに遠くから聞こえてくる騒音。


なにかが割れる音と、男の声を荒らげた喧騒音。


恐らくこの近くで何かが起きている。



そう思って目を細めた瞬間、



「…!、ちょっ…!!」

ちょっかい出してきてるのは誰だ。

なんで私は天音に手を引かれどこかへ連れてかれそうになっている。


その半歩後ろの方では、稜が何食わぬ顔して付いてきているし。


中庭に来た時に使った昇降口ではない所から校舎内へ入る。

全日制の使用している校舎もあってか突然現れる定時制の天音と稜にびっくりしている全日制の生徒。


それでも、大人しくこの様子を伺うようにして手を出してこない所からみると、天音と稜はそれなりの地位にいるってことがわかる。


殺風景な廊下を暫く歩く。

すれ違う教室はまだ授業中である。

こんなことなら私も教室に残ればよかった、と後悔。





そして、廊下の突き当たりを曲がった所で激しく聞こえてくる先程からの騒音。



「相変わらず激しくやってんね」

「若い奴は血の気が多い」

天音と稜のやれやれと言わんばかりの呆れ声。


そんな声に視線を乗せて、私はそっと騒音のする方を見る。


狭くもなく広くもない廊下のど真ん中で、圧倒的存在感を放つ男が2人と、

それを囲うようになにやら焦った雰囲気を出す数十人の不良達。

さっきまで通ってきた廊下の雰囲気とはまるで違う、殺気立った空気。そして、騒音の原因でもある割れた窓ガラス。近くを見れば、椅子やら机やらも転がっている。


なんて物騒なんだ。

ここだけ治安が悪い。

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