第2話

器用に、大雑把に私の頭を撫でる彼の名前を、

「響(キョウ)」

と呼ぶ。

私より全然遥かに高い身長な彼の目を上向きにジッと見つめる。




緩やかに口元を孤に描きながら、吸っていたタバコを携帯型の灰皿に押し込める響。


「あぁ、元気だぞ。チサ命に拍車駆けてる」

きっと、私の知らないいつかの記憶の断片を思い出してるんだろう。

そう愉快そうに近況話をしつつ、私に小さな茶封筒を渡してくれる。


それを、落とさぬよう、ギュうっと両手で抱きしめる。


「笑った時の顔とかは、お前に似てきたな。

そんで、チサを俺から守ろうとする時の顔はアイツそっくりだ」

゛生意気だけどな゛そう付け加える。少しだけ寂しそうに、かつ愛おしそうに。


「…そう…」


私の小さな呟くように吐いた言葉を、ヒュウっと冷たく風がさらっていく。


街より少しだけ標高の高いここは、まだ寒さは残ってる。



この門の先の向こう側にいる、小さくて大切な宝物。


まだ、会えない存在に視線を向けながら、



「会ってくか?」

心配そうに、少しだけ視線を揺らしながら見せる彼の優しい気遣い。


それに、小さく首を振る。


「もう行く。今月もありがとう」


゛会ってくか?゛ そんな彼の質問には答えずに。

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