第29話

それにしてもほんと皆返事もそうだけど名前も個性的だな・・・うん。合ってると思うよ。始まる前に一瞬漢字は見せてもらったけど特にチャラ男の名字全く読めなかったんだよ!てか一番乗り気じゃない私に色々言われたくも思われたくもないと思うけどな!

「最後に。高等部一年SSクラス神乃宮悠ーカミノミヤユウー」

「え、はい」

その名前が呼ばれると集会場内がざわつく。数日前突然異例で男子校へ編入した人間が選ばれたのだ。反応してしまうのも無理はない。当の本人はそれどころではないが…。不意打ちにあった気分なんだけど・・・てか私も返事変になっちゃったんだけど!皆の事言えないわ…

若干打ちひしがれながらも重い足取りで舞台袖から歩いて舞台の中央へ。ははは・・・もうどうにでもなれ

舞台袖を出て直ぐ、感じる視線。妬ましい、恨めしい、羨ましい。そんな感情と共に突き刺さる視線視線視線。・・・痛い!視線が痛すぎるわ!穴あいたらどうするんだよ!開かないけどさ!!

いつも通りと流石の悠も行かず声に出さず表情も真顔のままだ。

この雰囲気で話したりできる人は名乗り出てきて欲しいってくらい何とも言えない空気だから!!

演台を背にし、翔、有稀、伶、新とよばれた順番で並んでいるがそれに気が付かず新と伶、有稀の後ろを素通りし翔の横へと並ぶ。

翔の焦った様な呆れたような表情を見てはたと気が付いた。そうだよね!呼ばれた順番に並ぶよね…って呼ばれた順番に並んでる事も今気が付いたんだけど。なんで翔ちゃんの横に並んだ!?

悠が並んだことを確認すると理事長が演台から離れ翔達の前で立ち止まる。

「誓いを」

「「「「labyrinthの名の元に」」」」

理事長の言葉に翔、有稀、伶、新の四人は片膝を立て右手を心臓の前に置き背筋を伸ばしたままゆっくりと深く頭を下げそう言葉を口にした。

なにその誓いの言葉って…何も聞いてないんだけど!!・・・この状況で分かると思うけど立っているのは私だけなんだよね

「何やってんだよ!」

状況が掴めず突っ立った状態を少し顔を上げそう怒った口調でこちらに言葉を発する。・・・翔ちゃんそれもう小声じゃないから。この場にいる全員に聞こえるくらいには声大きいから。寧ろ怒鳴り声にしか聞こえないから!

仕方なく見様見真似で同じ様に跪くと翔は何事もなかったかのように再び頭を下げた。

『あ・・この・・・な・・を・・・』

すると、どこからか誰かもわからぬ声が聞こえ頭を上げそうになるがグッとこらえる。

今頭の中で誰かの声が聞こえた気がする…気のせい?

悠のそんな疑問都は裏腹に認証式は進む。

「labyrinthの名の元にこの者5人をlabyrinthの称号を与える。そして・・・特別第一部隊labyrinthとしてここに任命する」

理事長がそう言い終ると拍手が沸き起こる。

なんかよく分からないんだけど…どうやら認証式は終わったみたい。というかこれ完全に儀式じゃん。後何時までこの体制のままで居ないといけない訳!

鳴りやまない拍手の音が何処か遠く他人事のように感じられる。

やらないと。今私がここでやらないと

・・・今思えばあの声が聞こえた時から予兆はあった。気が付かないふりをしていただけだったのかもしれない


認証式はこれにて終了し、通常ならこのまま一礼し舞台袖に戻るだけなはずだった。突然悠が立ち上がり

「labyrinthの名の元に汝らの名を告げ我へと下れ」

頭を上げたままの翔達に向かいそう言葉を言う。否、これは儀式なのだ。

って私何言ってるんだ!?口が勝手に動いた…!?

「お前何言ってんだよ!」

翔は立ち上がり悠に詰め寄るが、体が言うことを聞かず跪いたまま動けなくなってしまう。それは有稀や新、怜も同じく視線だけがこちらへと向いている。また、張本人でもある悠も頭の中は混乱しているのか視線は泳ぎ何が起きているのか分からないと言わんばかりに翔達を見つめている

翔ちゃんと同じように思ってるわ!異様なのは自分が一番理解してるから!

「・・・名は省略。戒めの血を解き放て。聖杯召喚」

此方の意思とは関係なくまるで誰かに操られているかのように言葉を紡ぎ出す。聖杯召喚の言葉と共に胸元がより一層光り輝きcardの形をした空間が一瞬でダイヤの様な形へと変わり服の上に現れる。それに手を近づければ空間から柄が現れぎゅっと握り素早く抜き出せばレイピアに似た細身の刀身に複雑な装飾が付いた柄が一瞬光り、弾ける。

悠の意識ははっきりしているが紡ぎ出される一音が、一つ一つの動きはまるで別人のようだ。

なんか完全に別の意思で動かされてるこの感覚、気持ち悪い!つか私に下るとか血の戒めって何!どういう事!?

「やっぱり悠ちゃん。君は・・・」

理事長はこちらを見て呟き危険を察知したのか距離を取る。体の自由を奪われた悠の体はレイピアに似た刀身を振り回し、当たりを破壊し始める。辺りは騒然とし戦闘態勢に入る生徒達もいる

理事長やっぱりって何か知ってる訳!?つかそこの自分聖杯振り回すのやめて!!ここ直したばっかりなんだって!!

だが悠の心の声が言葉になることは無い。

『・・・・貴方はこの世界に何を望む?』

その代り、今度ははっきりと声が聞こえ暗転する

やっぱりさっきの声空耳じゃなかったのかよ!てか一体誰・・・って視界真っ黒なんですけど。もう色々と勘弁して!

『貴方はこの世界に何を望む?』

幾度繰り返される度、声が強く意思を持つ。

これ答えないと元に戻してあげないよ的なやつ?ちょっと勘弁してほしいんだけど・・・

それに、そんな唐突に何を望むって言われても困る!

だが、やはり同じ言葉を繰り返すその声に、仕方なく答えた。

‶正直、考えても何も浮かばないしむしろ一体世界に何を求めればいいのか分からないけど…何も望まない。しいて言うなら、当たり前の毎日を当たり前の様に楽しく過ごせればそれでいい!‶

『やっぱり同じ血を引いてるのね・・・私も楽しかったらなんでもいいやって思ってたんけどね』

予想外なことが起きた。こちらの答えに、言葉が返って来たのだ。

・・・なんか普通に返事返って来たんだけど。なに?同じ血?なんか勝手によく分からないこと言ってくるんだけど

『だけどね・・・全然違ったのよ。ただ聖杯召喚できるってだけで気味悪がれて・・・・しかもlabyrinthって呼ばれて。この意味知ってるでしょう?迷宮って意味。・・・本当に私迷宮入りしちゃったけどね』

無視かよ!・・・ちょっと待って。今この声の主はなんて言った?labyrinthって呼ばれるようにな・・・labyrinth!?本物つか死んでるんじゃ!?てか男じゃなかったの!?

何故labyrinthの声だと分かるのかは、分からないけど!この声はlabyrinthだってそう自分自身の心が、魂が言ってるんだからもうこの声labyrinthなんだろうね。うん。

その声の主はただ自分の言葉をこちらに向ける。

『え?私男になってるの?男にしか聖杯召喚が使えないなんて・・・・間違いもいい所ね』

姿形は見えないが、頭の中で聞こえていたはずの声だけがはっきりと直接耳に届く。

…龍がlabyrinthに似てるって言ってたのってこう言うことだったのかって納得してる場合か!!

えっと、あー…まぁlabyrinthが男じゃないって聞いた時点でそんな感じはしてたけど、常識になってて学校でも教えられてるそれが違うってどうなの、それ?

『仕方がないでしょう?世界がそうなっているのだもの。』

姿形が見えないはずだが、私と同じ黒髪の少女が小さな溜息を付いて上を見上げたのが見えた気がした。

ってなんでlabyrinthが私の心の中にいるの?そもそもこんな悠長に話してる場合じゃないんだけど…操ってるのだって…

『それはその内分かる時が来るわ。それに貴方を操ってるのは私じゃなく貴方の奥深くに在る力よ。元々持っていた力だけれど、私が目覚めてしまったことでその力は完全に覚醒してしまったのね。今は覚醒と言うよりも暴走の方が正しいかしら。」

力の暴走…。

思い当たる節があるのか、手を強く握りしめる。

「いずれにしても貴方はこの力を完全に自分の‶もの‶にしなればならないのよ。それも早急にね。覚えがあるはずよ。怒り狂うと、感情が強く出すぎてしまうと自分自身では止められない事。誰にも止める事ができないその力を。そうでしょう?私も同じだったからよく分かるの。あれは、すごく恐ろしい・・・私も貴方も運がいいのかもしれないわね』

labyrinthは、まるでこちらをジッと見つめているようなそんな気配がした。

今までlabyrinthがその力を抑えてたってことか…

凄く恐ろしい・・・labyrinthのその言葉がやけに重く心にのしかかる

小さい頃から私には聖杯の力があった。おまけに力が強かったからか使い方がよく分からなくて暴走状態になることも多かったけど、父親に教えられたこともあってなんとか自分で抑えることが出来てた。けど…酷く、酷くなったのはジーンと戦ったあの時からだ。

自分では抑えられない黒くて黒くて恐ろし禍々しい力。我に返った時にはジーンは立つのもやっとなくらいにボロボロで・・・そして、あの言葉を言って消えて行った

静寂と暗闇の中、過去の未だに囚われたままの過去を思い出すが気持ちを切り替える。

labyrinth…どうして私の心の中にいるのかは分からないけど、やっぱり私はlabyrinthの子孫なんだろう。どこか他人事だと思っていたけど、確信に変わった

『最後に。・・・私は本当の意味でその力には勝てなかった。けして私の様にはなって欲しくないの。私がこのままなら、蘇って何もかもを、何かを壊してしまうわ。もしそうなったら、貴方が私を止めて・・・貴方なら、きっとできるわ』

labyrinthの声がどんどん遠くなり、完全に聞こえなくなる。静寂と暗闇に包間れたままだがふっと意識が上がる。闇がどんどん遠くなっていく様子はまるで水の中からゆっくりと上がっていくようだ。さらにもう一回今度は水面から誰かが体を引き上げた様な感覚がした時、目の前の景色は突然変化する。

「・・・」

もどっ・・・た?

状況を確認する為ゆっくりと視線を上下、左右に動かせば、握られた剣に赤い色の液体と黒い色の液体が付いている。・・・よく見れば黒い悪魔の血だけではなくまだ新しい人間の鮮血もついておりぽたぽたとしたたり落ちている。・・・一度冷静にならないと。

握られた剣を振り払い、付いていた血を落とす。

私が正気を失ってlabyrinthと話していた時間はほんの僅かな時間だったとはず。多分。・・・暴走状態だって言ってたし今までもそう言う状態になったことはあるけど流石に体感5分も経ってないのにどうすればこんな状態になるんだろろう

むせかえる程の血の匂い。悠が立っている舞台上は床に穴が開いており想像を絶する大量の血がこべり着いており血だまりがあちこちに出来ている。その上で数分前まで五体満足だったこちらと同じ制服を着た男達が倒れこんでいる。

幸い悠の血を飲んだ悪魔は見受けられないが数が多く防戦一方だ。・・・男子校に来て初めに戦った時とここでわざと悪魔をおびき寄せて戦った時。それとは比べ物にならない位、酷い有様…これ私が原因ってことなんだよね

途方に暮れる中、舞台端で武器を持ち仰向けの状態で翔が倒れて否。死体の様にピクリとも動かず転がっている。

あぁ、間違いない。・・・・これをやったのは私だ

「翔ちゃん…」

倒れている男達に近寄り、皆息があることを確認するとほっと息が零れた。舞台から様子をみながらただただ考えることしか出来ない。

どうして、どうしてここに悪魔がいる?・・・ジーンやルシーならともかく結界は張り直した筈なのに。labyrinthが目覚めたことで力が増幅した?抑えてた力が暴走状態に陥って結界を破壊したから?

どれにしても、私が原因だって事だけははっきりしてる。

息を吸い込み、頭の中に浮かんだ言葉を唱える

「新たな名を神乃宮悠。labyrinthの名の元にーー下れ。labyrinthの血の盟約に従え!」

そう叫べば少し、ほんの少しだけ悪魔が少なくなり取れきれなかった剣のついていた血や床についていた黒い血は復元と癒しの力も含まれていたのだろうか、綺麗とは言い難いが消えていた。

・・・まさか吸い取ったとかないよね。其れさえも自分の力にしたとかないよね。ないと思おう!!

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