第28話
-時間を少し遡ること2時間前
「えっと・・・」
悠は理事長室の左隣にある部屋の中にいた。
昨日、認証式について理事長から説明を受けていた際に‶朝早く来てね♪‶と言われていたのだ。
まぁ、そのせいで教室戻ってからも認証式の事で頭の中が埋め尽くされたおかげで男子校初授業は勿論気が付いたら寮の部屋に居たからな…
男子校に編入して二日目ー正確に言えばまだ2日も経っていないのだがーにしてとても濃い学園生活で疲労困憊になり目を覚ましたと同時に寝てしまったことに気が付いた。
龍に起こされそのまま寝ぼけまなこの状態で準備をし、扉を開いたら理事長がいた。心臓止まるかと思った。あと勿論ここまでの記憶は殆ど無い!!
そしてそのまま半ば強引に引きずられるにして連れて来られたのは理事長室の左側にある部屋だった。部屋に入ってすぐ目の前に飛び込んできたのは大量の服。制服から理事長が着ているような服まであったが、一番驚いたのはそこではなかった。
なんだここ…どうしてこんなにドレスばっかりあるんだ!!
という訳なんだけど…ドレスの多さ可笑しくない?殆どドレスなんだけどこれまさか理事長が着てる訳じゃないよな?・・・理事長の趣味
「僕の趣味ではないし着ないからね。さ、この中から早く選んでよ」
朝6時前とは思えないほどのテンションの高さと笑顔でドレスの前にいる理事長は不気味だ。・・・・って言われても既に理事長が選びだしちゃったんだけど!
「これもいいけど・・・やっぱこれもいいよね!」
なんで理事長が必死に私のドレス選んでるんだよ・・・って着るなんて一言も言ってないんだけど
「えっと、理事長ー・・・」
「あ、しばらくかかりそうだからその辺りで待っててよ。・・・このドレスだったらメイクはこうなるのかな~・・・」
必死に大量のドレスを見比べている理事長に話しかけたものの直ぐに興味はドレスにへ戻り話し掛けれるような雰囲気ではない
いや・・・・私に選べって言ったよな!?しかもメイクとか言い出した!!もういいや。
これいつまで時間がかかるんだろうか・・・
「ってわけであの空間にいるのが嫌になって部屋から出てきてからずっと待ってるんだけど・・・」
「お前この話これで何回目か分かってるか…?」
会った時よりも疲れ果て座り込んでいる翔だが、それを見ている悠も疲労の色は隠せていない。
「翔ちゃんが来てくれたからからかって時間潰せてるけどさ」
まぁ、かれこれ一時間は扉の前で話してるから疲れるのも当然だと思うよ、うん。時間の進む感覚既に可笑しくなってる気がするし
「からかうんじゃねーよ!俺はお前の遊び道具か!」
「あはは。」
「はぁ・・・つか理事長本当に出て来ねーな」
乾いた笑いにさらに疲れが出た為何も返せなくなったのか翔は深い溜息を付きそう言うと扉を見つめる。
「ほんとそれ。朝早く起きたのに!・・・寝ぼけながら扉開けたら目の前に理事長がいた時の気持ち分かる?待ってる間も暇で暇で・・・あまりにも暇で眠くなってきてちょっと意識飛んでたんだけどさ」
いつの間にか肩に乗ってた龍に起こされたんだけどね…
翔と愚痴を言い合っていると突然扉が開き中から理事長が出てくる。翔は扉を背にし座り込んで居た前に弾き飛ばされ背中をさすっている。
・・・もしかして決まった?
「ようやく決まったー!じゃ・・・こっち来ようか」
やっぱり決まったらしい・・・ようやくかよ!
楽しそうな声色でこちらの手を握るが、よくよく見るとなんかボロボロじゃ?ドレス選ぶだけなのに一体何があった・・・って
「痛っちょ・・・力強っ!!?」
理事長に手を握られるとずるずると引っ張られながら部屋の中に引きずりこむ。ちょっと何!腕が抜けるわ!!
そのまま部屋の中に引き吊り込まれ扉が閉まる音が聞こえた。
恐る恐る理事長の顔を見ると、凄く笑顔だった。逆に私の顔は引きずってるけど!その顔怖すぎる!
「じゃあさっそく・・・始めよっか♪」
「いやあの始めるって、ちょっとなんで近づい・・・ぎゃぁぁぁ!!」
この後どうなったかと言うと・・・まぁ、勿論全力で逃げた。
「お、出て来た・・・か」
フラフラと死人のような表情で出て来た悠を見てさすがの翔もかなり心配した様で切勝手に理事長室の扉を開け中へ悠達を誘う。
それにあくびをしながらクリーム色の髪の長い男が。後に続き薄桜色の髪の短い男とマッシュルーム型の髪の短い男が躊躇いもなく部屋の中に入り思い思いにくつろぎ始める。
その様子を見て、こちらも躊躇うことは一切せずそのままフラフラと理事長室に入るとソファーに座りこんだ。・・・流石に大丈夫じゃない事は分かったみたい
「・・・大丈夫か?」
顔色が白く、くたびれている悠を同情の目を向けながら流石に翔も心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫じゃない・・・どっと疲れが」
大きく息を吸い込み、静かに深く息を吐く事数回。
「何言ってるの翔ちゃん・・・頭大丈夫?あの時よりはましだけどさ…」
「どの時だよ」
突っ込みありがとう…
グッと背伸びをし、そのまま腕を左右に揺らし凝り固まった体をほぐしながら小さく欠伸をする。その様子にいつもの調子に戻りつつあると感じた翔はどこかホッとした様子で息を吐く。
「結構前、じゃなくて少し前に魔界に行ったんだけどその時に魔王に無理やり着させられたんだよね・・・胸元と背中が、死ぬほど空いてて体のラインがくっきり見えてついでに若干透けてるやつ。」
その時の事を思い出し渋い顔で苦笑いをする。魔王と直接会話をしたわけではないものの悠との会話を聞いていた翔は想像が出来たのか
「お前そんなもん着させられたのかよ」
と、ご愁傷と言わんばかりに呆れた表情を浮かべる。
「魔王は趣味が変なんだよ!・・・理事長も同じだけど」
ついでに翔ちゃんも。・・・あれ、周り変態しかいないんじゃ?
「誰が変態だよ!」
先ほどから心の声が漏れているが、そのたびに翔に突っ込まれているのに気が付いていない悠は考えるのを止める。
「それにしてもその髪型・・・お前も女だったんだな!」
ドレスに着替えることは阻止出来たものの‶髪型だけでも‶と理事長の迫力に勝てず悠の髪型は両側の横が身を一部残し片方の横髪をロープ編みにし、上部を三つ、三つ編みにした後ロープ編みを三つ編みに通し軽く崩した見た目がまるで滝の様な編み込みになっている。
また、三つの三つ編みを一まとめにしお団子を作りそこにシルクで作った黒バラの周りに黒曜石を使い茨を現しルビーを散らしたマジェステー簪とモチーフを一体化させたものーが差してある。
手の込んだものであることは一目瞭然だろう。いつものロングヘアとは雰囲気が大分違う悠に翔は少し浮かれているように思える。が
「・・・そうだね」
当の本人は理事長との攻防戦に疲れ果てている為それどころではない。クリーム色の髪の長い男はそれと見て口笛を吹き、薄桜色の髪の短い男は似合っているのかとても髪型を褒めていたがそれにもやはり気づてはいない。
マッシュルーム型の髪の短い男はチラリと視線だけを動かすだけで表情は特に変わらないままだ。
「お前・・・本当に大丈夫か?」
翔はかなり深刻な表情で話しかけるが、疲れ切っている原因は髪型が理由ではなく元凶がいる理事長室内左側にある開いたままの扉に向かい視線を移す。
理事長曰く、左側の部屋は衣裳部屋兼資料室で右側にある部屋は理事長の私室らしい。それ知ったの髪型いじられてる時だったから驚きだよね…
私室に行く方法は知らさせなかったものの衣裳部屋兼資料室への行き来の仕方は聞くことが出来た。
理事長室側から開ける場合は本棚の中に細工が仕掛けて在りそれを動かす事により扉が現れる仕組みに。
左側の部屋から開ける際は既に扉があり開けるだけで勝手に理事長室側の細工が動くようになっているのだ。突然目の前に理事長がいたのはこれが理由だ。
だが初め、理事長室を訪れた時今の場所に扉は無かった。否、認識できていなかったと言ったほうが正しいだろう。扉を見る方法はただ一つ。仕組みを知り、認識する事。
この事を知っている人数は限られており、特殊部隊所属の隊長とSSクラスを担当する教師のみ。それになんで部屋見渡しただけで分かるとか思われたんだろうね!・・・分かる訳ないから。私そんな超人じゃないから!
先ほどのやり取りを思い出し深く溜息を付くと衣裳部屋兼資料室を見つめたまま淡々とした口調で声を張る。
「早く自分の衣裳を決めてくれませんかね理事長」
『え?』
翔達の声が重なり様子が気になったのか真っ先に薄桜色の髪の短い男がそっと開いたままの扉をそっと覗き込む。クリーム色の髪の長い男と翔がそれに続きマッシュルーム型の髪の短い男は少し離れた位置から扉の中を見ている。
「あとちょっとなんだよ…!」
衣裳部屋兼資料室から唸り声と共に理事長の独り言にしては大きい声が聞こえる。
そのセリフ何回目だと思ってるんだよ・・・
「あー・・・もう!いい加減にしろ!待ちつかれたんだよ!!」
ソファーから立ち上がり翔達を押しのけ衣裳部屋兼資料室に入ると目についた服を乱雑に手に取り理事長に押し付ける。
「とっととこれに着替えて認証式してください。一刻も早く!」
そのまま荒々しく扉を閉め、ソファーに座り直す悠の表情は清々しい程笑顔だ。
なんか凄くスッキリした・・・これでようやく解放される!
「ふふ・・・あははは!」
「・・・後で病院だな」
今まで聞いたことの無い様な低い声で腹を抱え笑う悠に翔は引きずった表情でそう言う。クリーム色の髪の長い男はそれを楽しそうに眺め薄桜色の髪の短い男とマッシュルーム型の髪の短いは顔を見合わせ引き気味に様子を見ている。
ただいつもよりテンション高く笑ってるだけなのにそんな引かなくても良くない!?
そんなやり取りをしていると衣裳部屋兼資料室の扉が開き嬉しそうにスキップしながら理事長がやって来る。勿論、服はこちらが適当に選んだ物だ。
「本当に君センスいいよ!」
嬉しそうで何よりです・・・目についた服投げ捨てただけなんだけど
「そうですか。・・・どうでもいいんで早く認証式やってくださいよ」
余りにも嬉しそうな表情を浮かべこちらを見る理事長に翔と顔を見合わせ困惑する。
七分袖のシンプルな白のデザインのブラウスに黒色のY字型のサスペンダーを付け、こげ茶色を主体とした灰色の線が入ったチェックストライプの短いベスト。
さらにコートとマントにケープの要素を取り入れを融合させたボタンは無く襟金色のチェーン下は黒を主体とした七分丈のズボンにアクセントの灰色のチェックストライプが薄く入いっている。
黒色の靴下だが靴はいつも履いている物と同じように見える。…まさかこんなの選んで、選んだって言わないか…
「はいはいー聖杯召喚♪」
なんとも軽い言葉と共にそう唱えると、光が理事長の身体を抜けだし段々と形が変わっていく。眩いほどの光が消えると小さな機械が現れた。その機械はここ10年で様々な学校で使われるようになったマイクと呼ばれる機械に似ているが普及している形とはだいぶ異なり、透明な球体の中にマイク上部分を入れた様な見たことのない形をしている。するとcardの形をした空間がマイク上部分に現れ光が一段を強くなる。
理事長って規格外だと思ってたけどまさかここまで規格外だとは思わなかった…なにその聖杯召喚。聖杯召喚自体を応用とかなんなの?
この方法を日ごろから使っているのか翔達は気にする素振りもせず当たり前の様にその光景を見ている。
驚いてるの私だけ!?なんか私が可笑しいみたいな雰囲気だけど可笑しいの多分翔ちゃん達の方だから!
「格SSクラス特殊部隊所属の皆へお知らせだよ!新しい部隊の認証式をするから集会場に集まってよー!今すぐだよ♪」
透明な球体に向かい楽しそうに話しかけるその様は、どこか異常さが滲み出ている。・・・なんか独り言大声で叫んでる頭おかしくなった痛い人に見えるわ・・・
理事長の声が頭の中で声が二重に聞こえ乗り物酔いに似た言い表らせない気持悪さに襲われる。
うぇ・・・気持ち悪い。つかこんな使い方有りな訳…?
多分通信を目的として聖杯使ってるんだろうけど、もしcardに意思があったらまさか呼び出しだけの為に使われるとは思わなかっただろうな・・・
理事長の話しが終わると透明な球体はシャボン玉の様にはじけマイク上部部が光に包まれるとcardの形をした空間と共に理事長の胸元に一瞬眩く光消失する。
私一体何見せられたんだろう…って
「集会場ってどこだっけ…」
「は?」
悠達はこげ茶色に金色の校章が入って演台の前に居るご機嫌な理事長を集会場の舞台袖で見つめていた。
あの後、翔は静かに溜息を付き悠の手を取ると理事長と二言会話を交わし集会場の舞台袖まで引っ張るようにして連れていった。
翔に連れられている間、クリーム色の髪の長い男は何がそこまで面白いのか疑問だが終始笑っており薄桜色の髪の短い男はそれを見てまた笑い、マッシュルーム型の髪の短い男はわずかに呆れた表情で舞台袖まで付いて来ていた。
実際集会場に入る通路に着いた頃には思いだしてたんだけどね!!翔ちゃん手を放してくれないしそのままついていくしかないよね。
集会場の二階部分はかなり縮小されており一階部分の床が上がって舞台に近い為顔が良く見えるようにになっている。
舞台上には中央奥に演台が置かれているのみで前回ここへ来た時と変わっているのは舞台の横幅が少し狭くなったことくらいだろうか。
てか今更なんだけど認証式って何するんだろう
「えー・・・全員集まったみたいだね。集まったよね?」
生徒全員が座ったのを確認すると理事長は話しを始める。
『おう!』
マイクを通して理事長の声が響き野太い声がスピーカーから出る声を掻き消す。ここへ来た時に比べると大分人数が少ないように感じるがそれでも十分人数はいるようだ。・・・てか返事それでいいんだ。
そんな様子をこちらとは違う心境でお互いげんなりしながら見ている翔。クリーム色の髪の長い男達は特に変わらず自由だ。うらやましいな!!
「皆に集まってもらったのは、特殊部隊labyrinth第一部隊に配属が決まった子達がいるからだよ。急だけど、これより認証式を執り行う。」
理事長の口調がいつもの掴み所の無い少年の様な声なのだが、雰囲気ががらりと変わる。
「特殊部隊labyrinth第一部隊にこの5人を認証した。・・・高等部1年SSクラス呉牙翔ークレガショウー!」
「・・・はい」
テンション低っ!
思わず隣にいた翔を二度見してしまうがそれに反応する事さえままならないのか異様なテンションの低さのまま舞台に向かい足取り重くとぼとぼと歩き始めた。が、舞台袖から出るや否や先ほどの様子はなんだったのだろうかと思うほどきびきびと歩いていき座っている生徒達を見て微笑を浮かべ一礼し演台の方へと歩いていく。
悠はあまりの代わり様に表情がぼとっと音がするのではと思うほど抜け落ち顔をペタペタと触る。・・・顔のパーツ落ちたかと思った。
翔ちゃんが・・・気持ち悪っ!何あの笑顔。あんな気持ち悪い顔初めて見たんだけど!?お蔭で鳥肌止まらないよ。それに理事長の雰囲気も変わり過ぎてもう既にここから立ち去りたい
「続いて・・・同じく高等部一年SSクラス小邑有稀ーコムラユキー」
「はーぃ」
薄桜色の髪の短い髪の男、有稀は足取り軽く演台へと歩いていく。
「・・・かわいいよな」
「・・・ッチ」
今舌打ちした!?
静まり返っている為声がはっきり聞こえたのかにこりと笑うがすぐさま無表情になり舌打ちが聞こえた。
気のせいだと信じたいけど・・・まぁなんかそんな気はしてたよね。うん。
「続いて同じく、高等部一年SSクラス來田村伶ーキタムラレイー」
「…はい。」
マッシュルーム型の髪の短い男、伶は少し間が開き淡々とした口調で返事をするとスタスタと演台へ進んで行くが横を見る素振りもなくただ人形の様に真っ直ぐ歩いていく
「続いて、高等部二年SSクラス訊宮司新ージングウジアラター」
「今行くよ~」
ん?今二年って言った!?・・・気のせい。きっと気のせい聞き間違い!
クリーム色の髪の長い男、新はいつも通り軽い返事と共に足取りも軽く周りの視線も大して気にしていないのかそもまま演台へと歩いていく。
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