第27話

「・・・我は求む。その傷を沈め癒したまえ」


理事長室に行くためには三階の螺旋階段中央にある転移方陣を使わなければならない。それ以外に行き方が無いとされているからだ。翔の後に続き無事に四階に着いた時だった。

淡い白い光が腕上部から背中にかけて集中し始めた。治癒をされていることに気づき驚いた表情で翔が振り返る。光はまだ消えない。

「お前・・・凄いな」

いきなり何言い出すんだ翔ちゃん。聞かなかったことに、特に何もないように説明する

「あー・・・治ってはいるけど今日中はあんまり無理しない方がいいと思うよ。包帯も取らない方がいいよ」

その言葉に軽く頷き再び歩き出す。同時に光は静かにきえた。

四階の造りは少し変わっており南側に浮いているのだろう方陣がある場所は円形で周りには低い手すりが付いており左にはL型の、右には逆L型の細い通路が続く。

その周りには一面ガラスとなっており通路の先には広い廊下があり、大きな部屋が三つ並んでいる。

前来た時は見るのも出来なかったけどやっぱりこの学園複雑すぎる!!なんで四階に来たらこんな別空間みたいな感じになってる訳?そもそも理事長室って四階にあったんだ・・・知らなかったわ

「・・・っと着いたな。」

いつの間にか真ん中にある理事長室まで来ていたようで翔が扉を数回ノックする。返事が返ってくる前に悠が先に扉を開けた。

「失礼しまーす」

「お前もう入ってるだろ・・・失礼します」

また突っ込み入れられた。

部屋の中に入ると既に理事長がおり、後ろから頭を抱えた翔が後を追う。

「色々やってくれたみたいだね!」

目の前までやってきていた理事長に開口一番今までで一番の笑顔で迎えられるが目は笑っていない。そこ嬉しそうに言う所じゃないよね!

「あはは・・・すみません?」

乾いた笑いで答える。まぁ私のせいではあるからな!!

「俺に関係ねーし」

関係大有りだろ!!思ってなくても謝った方がいいこともあるんだよ翔ちゃん!!てか色々に翔ちゃんも含まれてるから!

「ま、怒ってはいないよ。・・・心配したんだよ!」

「・・・へ」

聞き間違い?怒られると思ったらなんか心配されたんだけど!

「なんだその気の抜けた声は・・・」

余りの気の抜けた声に左隣から呆れた声が聞こえる。さらに

「・・・お前大丈夫か?」

と心底心配そうな表情でこちらを見つめ…

「翔ちゃんに大丈夫かって言われた…!?」

「おい!」

わざとらしく翔に言えば、つかさず突っ込みを入れる。やり取りを見ていた理事長は先頬度とは違う笑みを浮かべたまま咳払いをすると白いソファーに座り手招きをする。仕方なく反対側のソファーに腰かけると翔も続いて腰かけた。この座ってる位置翔ちゃんに引きずられるようにして連れられて来た時と全く同じなんだけど・・・

「話は変わるけどね、朝の事僕の耳に入って来てるよ♪…戦ってた相手は一体誰なのかな?」

話変わり変わり過ぎだろ!!あと急に真面目なトーンで話すのやめて。心臓に悪い

「確かに俺も気になってたんだよな」

前からは少し真剣な表情で、左隣からは純粋な表情でこちらを見つめる視線・・・

痛いっ!痛いから!そしてなにより居心地悪い!まぁ、呼ばれた理由は間違いなくさっきの事…てか大体理事長くらいの力があればわざわざ聞かなくても分かると思うんだけど…わざとか!?それに翔ちゃんは本当に気が付かなかったのかよ!!至近距離で会ってたよね!?

「あー・・・ルシーとジーン。あ、でも戦ったのはルシーだけでジーンは術を弱められただけというか…」

「はぁぁ??」

「えぇぇ・・・!」

悠の言葉に翔と悠がそれぞれ驚きの声を上げる。

理事長ってやっぱり男だったんだな…でも間違いなく声高いしもう声変わりする前の少年感が凄い!

「何が‶だけ‶だよ!」

此方に顔を近づけながらそう言う翔の表情は本気で怒っているようだった。心配している表情にも見える。

「勿論どういうことか・・・説明してくれるよね?」

「え、嫌・・・嘘です。よろこんでさせてもらいます」

笑みを浮かべまま最早軽い尋問の様な空気を醸し出していいるが理事長の問いかけに嫌だと言いかけた瞬間、笑みが消える。慌てて言い直せば再び笑み浮かべるがやはり目は笑っていない。

こっっわ!!怖すぎだろ!!笑顔も怖いけど真顔も怖い!!怖すぎだよ理事長!!


「って言う訳。ルシーは元々頭に血が上りやすいタイプだけど流石にあれは可笑しかったし、ジーンの様子も可笑しかった。」

その後、一部の内容を省略し、理事長と翔に説明をした。・・・流石にあの事は言えないからね

「ジーン復活したのかよ!!こんなことになるならお前を先に行かせるんじゃなかったぜ…」

少し声を荒げ叫ぶ翔だが、先に行かせたことを後悔し落ち込んだ表情でこちらを見つめる。

ジーンってそんなに凄かったんだな…

「ジーンが復活・・・困ったことになったね」

事の次第を重く受け止めているのか腕を組み考え込んでいる

「あーっと…ジーンは完全に復活してる訳じゃないと思うよ・・・あいつは、力の半分も取り戻せてないよ。」

それに、最後のあの表情・・・間違いなく何かを隠している。多分ルシーも。戦ってる時、ルシーがいつもの口癖を言った時があった。あの時確かにルシーは‶しまった‶って言う表情をした。それで完全に自分の中にあった違和感が確信に変わった。

未だ悩んでいる理事長が唐突に顔を上げた。

「・・・うん。決めたよ♪」

先ほどの表情は一体どこに行ったのか、とても楽しそうな嬉しそうな表情でそう宣言する。なんでそんな嬉しそうなんだよ!!

『何を決めたんだよ・・・』

タイミングを合わせた様に翔と言葉が被る。同じことがつい最近あった様な…昨日だよ!!昨日あったばっかりなんですけど!!凄く嫌な予感しかしないよ!

「あの子たち呼んできて・・・翔。もう近くまで来ているはずだよ」

あ、理事長完全に楽しんでるよこれ!

とてもいい笑顔で言う理事長に翔は逆らえず渋々頷く。

「・・・分かりました」

渋々返事を返すと理事長室を嫌々出て行った。扉が閉まり、理事長と二人きりになるが会話はなく静寂だけがそこにある。

暫くすると扉を叩く音がし扉をゆっくりと開け翔が部屋の中に入って来た。若干疲れが見える翔の後ろに人影が見えた。・・・誰だよ

「呼ばれたから来たよぉ。理事長♪」

「タイミングいい感じだね~」

「・・・頼まれたことはやった。要件は」

薄桜色の髪の短い男に、クリーム色の髪の長い男とマッシュルーム型の髪の短い音が翔の後に続いて入って行ってくる。・・・なんだチャラ男達か。なんで呼んだんだろう…

翔が左隣に座り、クリーム色の髪の長い男達は後ろに立つ。そっと後ろを振り返るとクリーム色の髪の長い男がひらひらと手を振っており薄桜色の髪の短い男はニコニコと綿いながらこちらを見ている。マッシュルーム型の髪の短い男は入ってきた時と変わらず淡々としいている。

この並び方ここに来た時と全く同じじゃん・・・こういう並びが好きなのか?

「君たちを呼んだのは、いいこと思いついたからだよ」

理事長の言葉にハッとし、慌てて前を向く。

「良い事ってなにぃ?」

「気になるな~」

「・・・」

薄桜色の髪の短い男はとても嬉しそうな声色で問いかける。クリーム色の髪の長い男は面白いのかわざとらしく聞き返し、マッシュルーム型の髪の短い男は言葉を発する事なく動く気配すらない。

「どう考えても嫌な予感しかしねーよ・・・」

昨日の理事長の発言に一番振り回されているのは紛れもない翔だろう。

翔ちゃん。それは私も同じだよ!本当に嫌な予感しかしない!

「悠ちゃんが居るSSクラスは少し特殊なんだ。」

この学園自体が特殊だと思うんだけど…

「SSクラスにはもう一つ役割があるんだ。それは悪魔が起こした、又は悪魔が起こしたであろう事件請け負い解決する為だけの力量を兼ね備えた者のみが入ることが出来るクラスなんだよ。それを特殊部隊labyrinthって名称で呼んでるよ。SSクラスにいる生徒は特殊部隊に配属されてるんだよ♪」

SSクラスってそれを目的に作られたクラスだったのかよ!それに何そのめんどくさそうな部隊!てかさらっと重要な事聞かされてるような…

「高等部一年生前半までは半年に一回部隊編成があるんだよ。後半からは僕と上役で勝手に部隊編成できるようになってるんだ!丁度発表まだだったしね♪」

特殊部隊labyrinthは各等部でそれぞれ編成されており基本生徒の能力に似合った部隊に振り分けられる。相性なども観見される為、力が不安定な中等部までと、力が安定したかを見極めるために高等部一年の前半まで行われる。

高等部後半で決定された部隊編成は変わることはまずなく、卒業まで同じ部隊に所属する。例外は、SSクラスからの降格、もしくは力の消失等様々だが基本は変わることなく所属し続ける事になる。

編成は基本、直接攻撃、遠距離攻撃、支援と攻撃、支援もしくは特殊のタイプの4人~6人で編成され学年が上がるとおのずと相性の良い者と同じ部隊になる。

部隊数の数は各等部で異なる。

初等部は全体で四部隊、中等部は学園年ごとに三部隊、高等部は六部隊、大学部は部隊数は決まっていない。

あ・・・まさか

「今ここにいる者を特殊部隊labyrinth第一部隊に任命する!・・・じゃ、よろしくね!」

満面の笑顔を浮かべながら言う理事長に対し、翔達の反応は様々だ

「マジかよ・・・」

「凄いよぉ」

翔は項垂れており薄桜色の髪の短い男は少し驚いている

「ようやく来たね~」

「…分かりました」

クリーム色の髪の長い男は当然と言った表情をしており、マッシュルーム型の髪の短いは淡々としているが翔達の表情はどこか嬉しそうだ。…私を除いてな!!

「はぁぁぁ!?」

何が何だか分からないんだけど、つまり第一部隊って事は第二部隊とかもあるって事!?中途半端な説明止めて!最後まで説明を!プリーズ!

混乱している悠を置き去りに生き生きとした口調で話しかける

「任命して思ったんだけど…翔はこの学園の中で実力が一番上で、君は女の子でしかもlabyrinthと同じ体質をもっててそんな翔よりも強い!これって最強コンビだよね♪」

そんな嬉しそうに言わなくても!こっちはいきなりすぎて何が何だか分かってない状態なんだけど!てか最強コンビって響きが嫌だ…

「ま、今は仮だよ。明日認証式するから・・・楽しい♪」

全然これっぽっちも楽しくないから!てか明日!?急すぎるだろ!!それって理事長としてどうなの?むしろ理事長だから許されるの!?

「男どもにはタキシード・・・そして君には・・・・ドレスを着てもうよ!お知らせもあるから楽しみにしててよー」

理事長の発言に、その場に居る全員が驚きの声を上げた。

「「はぁぁぁ!?」」

「えぇぇ!?」

「流石に急すぎるね~!」

翔と悠は同時に声を張り上げ薄桜色の髪の短い男とクリーム色の髪の長い男も驚き少し動揺しているが、一番動揺しているのはマッシュルーム型の髪の短い男だろう。声を上げる事も無くただそこの佇んで、否。固まっている。

流石に翔ちゃん達に同情するわ!!女嫌いの奴完全に固まってるじゃん…あれ意識失ってたりしないよね!?

そしてこの展開また何かありそう・・・もう既に何か起きてる気がするけど!それさえも今更な感じがするのが何か嫌!!


何が何だか分からない内に次の日がやってきてしまった…。


それは勿論認証式があるってことで。まだ男子校に来て三日目なんだけどどうしてこんなに疲れてるんだろう私。つか、めちゃくちゃ眠い!

理事長室の扉の前でそんな事を考えながらあくびをしていると何処からともなく翔達が現れた。

何時の間に…

「翔ちゃん・・・昨日と同じ格好だね!!」

「お前も同じだろ」

悠の余りにも高いテンションについて行けない翔は少し不機嫌に返事を返す。

お互い機嫌が悪いことには気づいておらずやり取りを見ていたクリーム色の髪の長い男と薄桜色の髪の短い男が顔を見合わせ笑っている。マッシュルーム型の髪の短い男は無表情のままそのやり取りを見ている。

「まさかドレス姿見たかったから怒ってるの?それとも…着たいの?」

「ちげーよ!!・・・なんで着てないんだよ」

こちらを見る翔はあからさまに残念そうな表情をしている。・・・やっぱり見たかったんじゃん。と静かに思うが声に出す気力は無い。

勿論分かってはいる。いつものー再開して三日しか経っていないのだがー翔と少し様子が可笑しいことに本人も悠もここにいる全員が違和感こそあるがそれを口にできる程の元気が無いだけだ。


「あはは。実はさ…」

現に、誰から見ても疲れ切った表情なのだか、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る