第25話

「おい!おまっ!?」

翔の焦りに焦った声が聞こえる

「なに?」

振り返りはしないものの、翔が焦っているのが腑に落ちないのか適当に返事を返す

なんで焦ってるんだろうか・・・あ、そう言えばここ学校だった!また変な噂話が蔓延するとか心配してるのか。

「ちげーよ!今もまだ落ちてんだぞ?!さっきより落ちるスピード早くなってんのに気付かねーのか!」

突如として顔色が変わる。

・・・気付きませんでした!!!

「これ、完全に地面に激突するパターンだ」

「何呑気に解説してんだよ!ってまた落ちるスピード早くなったぞ!」

乾いた笑いに翔の声がこだまする。これでもかなり凄く焦ってるんだけどな!

下から聞こえていたはずの翔の声は気が付けばかなり近い。壁に沿う様に落ちているのに気が付いていたのは下から見守っていた翔達と、落としたジーンだけだろう。今知ったんだけど!!

「・・・おらぁぁぁ!」

「うおぉ!?やめろよ!!」

窓から体を出す翔の体を必死に掴んだ。驚いたのか暴れ、翔も窓から今にも落ちそうだ。それ以上暴れられると落ちるんだけど!

「落ちる落ちる落ちる!!翔ちゃんも落ちるから!支えが落ちたら意味ないんだって!!」

「落ちても死なねーだろ!つか、支えにしてんのはお前だろーが!!」

先ほどの修羅場とは一転、違う意味で修羅場になっている。否、今も十分修羅場だ。

「このまま翔ちゃんが教室の中に引きずり込むのが妥当だと思うけど!!」

「無理だろ!!おいお前ら笑ってねーで手伝えよ!」

そう言いつつも窓枠を持ち教室内に引きずりこもうとしているがやはり無理があるのか落ちないようにすることにただただ必死な翔とその翔にしがみ付き耐え忍んでいる悠・・・ついでに翔ちゃんの身体凄いこっちに傾いてて今にも落ちないのが不思議なくらいだよ!!

「でもこのまま落ちると校舎の一部は間違いなく破壊しちゃうんだけど!!それとさっきからスカートめくれてるよ!」

「どんな情報だよ!!つかそんな情報いらねーよ!俺が履いてるみたいじゃねーか!!」

鋭い突っ込みが入るが、どうやらこの二人はかなりパニックになっているらしい。・・・翔ちゃんそんなにスカートが履きたかったのか!

「ちげーよ!!」

突っ込みありがとう翔ちゃん!まぁ、もしここから落ちたら間違いなく痛いんだろうな。打ち所悪かった死ぬかも。・・・それは大丈夫か。衝撃を受け止めることくらい簡単にできるし

若干…否、かなり苛立っている翔は室内へ引っ張る為の力とこちらの落ちる力により身体が千切れてしまうのではないかと言うほどの衝撃と痛みが走っているが・・・それも気にしてないんだよね翔ちゃん。ま、落ちるか

何のためらいもなく落ちる事に決めいざ翔の身体からだから手を放そうとするが・・・離せない。なんで!?

「つかお前が落ち始めてからずっとこんだけ‶引き寄せ‶してるのになんでこっちに引き寄せられないんだよ!!?」

翔はジーンにより落とされている頃から密かに引き寄せを使っていた。引き寄せられている本人は気づいてはいなかったが、周りには完全に知られている。その為周りにる男たちは助けに入ることをしなかったのだ。翔に任せれば大丈夫という確信があるようだ。実際、その確信は無くなりつつあるようで周りにいた男たちは翔の言葉により焦りを見せ始めている。

通りで校舎に近づいてたのか・・・けどとりあえず今は落ちる。何とかして翔の身体から手を放そうともがく

「あ」

「おい!!」

するりと手が離れ後は落ちるだけだったのだが、翔が腰を鷲掴み勢いよく中へと引き込んだ。

膝が痛い・・・何が起こった!?

引き込んだ反動で勢いよく椅子や机をなぎ倒し何回かバウンドし最終的に机に打ち付けられ転げ落ち床に叩き付けられた。翔はその間、悠を抱きかかえガシャン!!ガガガ!!と聞いたことの無い様な音と翔のもだえ苦しむまるで強敵と戦っているのではと思うほど声を出していた。

私は翔ちゃんがクッションになっていたからそこまで衝撃が走ることは無かったけどさ・・・

「翔ちゃん生きてる?生きてるとは思うけど!!」

屍のように動かなくなった翔に問いかける。

とりあえず大怪我してる事は分かってるけどお願いだからその腕を離してくれないかな!!身体がミシミシ言ってるんだよね!しかも翔ちゃんが上に乗ってるせいで動けないんだよ!!

「なんとか、いきてるみたいだな・・・俺」

暫く経つと掠れた声で翔が返事をするものの一向に動く気配がない。・・・動いたら凄い顔して睨まれた。至近距離なのを忘れているんじゃないかな!頭からの血が凄くて真っ赤だよ…普通に怖いわ。

そっと翔の怪我を確認する。自身の聖杯の力を感知として用いる方法は、聖杯所持者の間では日常の様に使われている。聖杯の力が安定していない者が真っ先にやらされることでもある。

聖杯のコントロールと自身の力を知る為に行う簡単な感知だ。触れているだけで感知出来るのだが、この感知方法は治癒を扱う者が特に長けている。傷の状態などを見る為に絶対に使われる方法だからである。

「翔ちゃん・・・肋骨二本折れてるし、肩は外れてるし頭ちょっと割れてるし出血多量だよ」

「そうだろうな!」

そう答えたのち直ぐに苦しむ翔。

なんで叫ぼうと思った!?あー、でもこの怪我完全に私のせいなんだよね。・・・もっと早く手を離せばよかった

「息をするよう癒し求める者に救いの手を。瞬くまにまに安息を。我求めるは光りなり。天使は舞い降りんーー癒したまえ」

目が開けられないほどの眩い強い光が翔を包み込む。その光は無数の羽を降らせ、降った羽が翔の体の中へと消えていく。体感は瞬きをする間の時間くらいだろう。

「お前今・・・」

目を見開いたままこちらを見下ろす。

昨日やったやつと似てるけど、集中的に治療したかったからこのほうが楽に治癒できるんだよね

「力の消費が激しいって心配してるの?それともさっきまで力を使ってたからこの術は消費が激しいって言いたい訳?このくらいで私がどうこうなる訳ないでしょ。それにその傷が出来たの私が手を刃や悪話さなかったせいだし」

「ちげーだろ。・・・俺が離れねーように術を使ったんだよ!説明しただろーが」

小さく溜息を付き、笑みを浮かべながらも困った表情の翔。・

「翔ちゃんがそこまで言うんだったらそう言うことにしておく。・・・どこも痛くないよな?」

「お前が治したからな」

この状況に全く気が付かない翔は不服そうな表情でそっぽを向く。

気付くと思うんだけどなんで気が付かないんだろう。新手の嫌がらせか!?

傷治ったみたいだよな・・・なら

「なら殴らせろ!」

「なんでそうなるんだよ!」

突然の発言に翔は状況が読み込めないようだ。一方やり取りを見ていた周りの男達は関係ないと言わんばかりに片づけを始める。

気付いてないの?・・・え?まだ気が付かないと言うかそもそも気が付かないのが理解できないんだあけど。わざとじゃないとしたら無意識!?マジかよ・・・

「とんだむっつりだな!!」

「はぁあぁ!?何言ってんだよおま・・・あ。」

翔の視線が自らの左手へと移動する。左手は、胸元にあるそれを鷲掴みにしていた。

思いっきり胸鷲掴みにしてるから!!なんで気が付かないんだ!!痛覚麻痺してるのか!!

大きさは平均より大きく、触れれば分からないはずがないくらいにはしっかりと脂肪という名の胸がある。

「死ねよ!!」

「や、止めろ!・・・ぐはっ!」

「その左手でいつまで鷲掴みにしてるんだよ!!」

「ぐへっ!」

左腕に悠の渾身の一撃が入る。情けない声を出す翔だが、この一方的な殴り合いー翔が原因な為周りは何も言えない…ーは翔が謝るまで続いた。


「次やったらただじゃ済まないから」

「もうただでは済んでないよな!?それにやりたくてやった訳じゃねーだろ!!次もねーよ!」

殴られ過ぎた翔ちゃんの顔腫れ上がって凄く痛そう・・・って自分でやったんだけどな!それと、そういうのフラグって言うんだけど翔ちゃん知ってるのかな!?

翔が謝罪の言葉を口にした後、仕方なく殴る手を下ろし跡形もなくなってしまった机や椅子をとりあえある程度元の形に戻しー理事長が使っていた術と同じように使いー近くにあった原形とは違う形に戻されてしまった椅子に、背もたれを左側にした状態で座らせ、治癒を終わらせる。

適当に修正を行ったため、力のバランスが崩れ机や椅子は全て女子校の頃の様な良く学校で使われている形になっているが、そのことに周りは誰一人何も言わない。否、言えないのだ。今は関わってはいけない。とその場に居る誰もが思っているようだ。若干数名は、それを楽しそうに見ていたのだが。

翔は椅子に座ったまま前のめりになりながら背もたれに左腕を乗せ溜息を付いている。

治癒までやったのになんで怒られてるんだ!私は!

「問題そこじゃないと思うんだけど!!」

「あ!?・・・あ」

余りにも殴られたことに腹が立ってたのかその言葉にカッとなり椅子から立ち上がると、翔は盛大に転んだ。とっさに背もたれを軸に立て直そうとするが、逆に此方にもたれかかる形で倒れてきた翔の右手手は、狙ったかのように再び今度は右胸を掴む。

横向きに座らせていたため、後ろにあった机に頭をぶつけそうになるがどうにか体を支える。

どうにか後ろにあった机に頭ぶつけなくて済んだけど・・・済んだけど!!今度はちゃんと気づいてるみたいだな!!?

「この変態がぁ!毎日小指足にぶつけろ!」

「地味に辛いやつだろそっ…がはっ!」」

二回目の殴り合いーやはり一方的だーが始まり流石に見ていられなくなったのか、はたまたこれ以上教室内が壊れるのが我慢ならないのかもしくはその両方なのか周りにいた男達が止めに入る。

それすらも巻き込こむような広範囲の術を唱え始める悠に青ざめるが、それに交じって楽しそうに笑うクリーム色の髪の長い男と、薄桜色の髪の短い男。それに明るいこげ茶色の襟元が狼の毛の様な髪の短い男は指を指し腹を抱えている。

まさしくこれがカオス。

この状況は教師の神楽が入ってくるまで続いた。

その様子を、上空から除く人間、否。悪魔がいた。

「ジーン」

「気にするなルシー・・・」

愁いを帯びた表情でその光景を見つめるのは、先ほど魔界に帰ったはずのジーンだ。その横ではルシーが心配そうな表情でジーンを見た後なんとも言えない表情で教室内を見るのを何度も繰り返している。

君は変わらない・・・いや、あの頃とはまるで変ってしまった。そうしたのは、僕か

‶私はジーンを裏切ってない。・・・例えジーン、が裏切られたと言おうが私はしていない。何も分からないかもしれない。・・・信じて欲しいのに‶

はっきりと聞こえた心の叫び。伝えてきた君は悲しそうだった・・・。知っているよ。だけど僕は、それを認めることは…

上を見上げ眩しさに目が眩む。憎らしい程、太陽が僕を照らしている。

・・・まるで、君みたいだ。

騒がしい教室内に視線を向ける。・・・未だ終わりそうにない一方的な乱闘に微笑をを浮かべる。しかしその微笑も直ぐにジーンの表情から抜け落ちる。

ジーンの様子をジッと眺め、こちらから見ればただ燥いでいるようにしか見えない悠を睨み付ける。

ジーンを苦しめてるのは間違いなくあいつなんだ。・・・だけど、なんだこの気持ちは

見れば見るほど頭が可笑しくなってくるぞ

「ルシー。帰るよ」

「分かったぞ・・・分かった」

「・・・僕の前では言い方を変える必要はないと思うよ」

「ジーンも変えてたぞ」

・・・変えられなかったんだ、ルシー

ルシーの言葉に応えることなく無言のまま、扉の枠の奥に続くくらい闇の中へと入って行く。ルシーも何かを振り切るようにしてジーンの後を追い暗闇の中へと入ってく。青空の中に穴が開いているように見えた扉の枠は直ぐに消えそれが普通とまるで初めから、何もなかったかのように青空が広がっていた

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