第24話

流石に術の安定が悪いのか体が上下する為、風で足場を作る。ちょっと寒いけど仕方ない

「気づかれたか・・・」

「なに?・・・気配を消す練習でもしてる訳?私じゃなくて他の奴らにもバレてるけど?」

誰でも気づくだろあんな殺気飛ばしまくってたら。それに、ルシーは気配消すの下手なのも知ってるんからな・・・

直ぐに此方から距離を取るとルシーは武器右手から左手に持ち替え構える。辛うじて武器になっているように見えたそれは前回とは違い禍々しさは全て武器の中へと循環され、はっきりと武器の形を取っている。

ダガーと呼ばれる剣だろうが、大きく曲がり切っ先部分はまるで刺す為だけに作られたように鋭利克ふくらみがあり、刺されば抜けることは無いだろう。

槍の形状を鎌に変えた武器のようだが、それを左手に持ち替えると形状が変化した。

鎌の様な持ち手部分は同じだが先ほどよりも短くなり、剣の形もスティレットと呼ばれる十字架のような形に先端は鋭利だ。

ふくらみはないがやはり刺す事に特化した武器のようだ。どちらの形状も刃部分に至っては薄桜色の髪の短い男の武器である短刀より10センチほど長く見える。

「お前ふざけてるのか!」

わざと言葉で煽りルシーの反応を見たが、やはり否。それ以上に呆れた言葉が返ってくる

「馬鹿なの?・・・ちょっと度が過ぎるよ。私を怒らせないで」

馬鹿だ、と言われると思っていなかったルシーは目を見開いたまま固まる。予想外な展開になると、どうやら思考が付いて行かなくなるようだ。

そんなに私をまたあんな姿にしたいのか?・・・違う。ルシーは何も知らないじゃないか

「俺は・・おまえを倒しに来たんだよ!」

動揺していたルシーが突然そう叫び武器を振りかぶる。瞬時に聖杯召喚を行いcardから引き抜く所で刃同士がぶつかり合う。

そのまま武器を引き抜き斬撃を食らわせたが寸前の所で防がれていたのか傷は浅く舌打ちをする。まだ昨日の傷が言えていないのだろうか、浅い傷だが顔を歪ませ距離を取る。が、距離を取った場所に詰め寄り浅い傷口をさらに抉るように斬りつける。

人間と同じ、真っ赤な血がしたたり落ちるがその血は直ぐに黒に変わる。最早立っているのすらやっとの状態のまま左手で武器を構える。武器の形態がさらに変わり、完全にスティレットへと変化した。だが、悠はそれをまるで他人事の様に見てる。見ているだけだ。

あの日から・・・怒らないようにしていた。私が怒れば私は私でなくなるから

「俺は、許さないぞ。・・・ジーンを苦しめるお前なんか死んだ方がいいんだ!」

言葉通り、一直線に此方へ向かって来る。が、当然の様に攻撃を防ぎ傷口に蹴りを入れる。‶グハッ‶と小さく声を出し赤い液体を吐き出し吹き飛ぶ。体を支えよろよろと立ち上がり

「どうなって、るんだよおま、え」

と、問う

「私きっと悪魔だから。・・・死ねば」

無表情のまま、今までの悠とは明らかに様子が違う。だが、隙など無く今の戦いを止めれる者などどこにもいない。

ここに、魔王がいれば止めれるのに・・・

「俺は!!お前を殺すためにここに来たんだ!!…うおぉぉぉぉお!!」

再び剣をこちらに向け走り出すルシーだが、私はそれがスローモーションの様に見えた

ルシー馬鹿だから気が付かないよ、な・・・あぁ、もう駄目だ。のみこまれてしまう

「・・・やめるんだ、ルシー」

その時、声が聞こえた。振り向くより先にこちらに背を向ける形で間に入り込む。

「ジーン!なんで来たんだよ!」

右手にあった自身の武器はいつの間にか消えていた。胸元の光も消えていたが、それに悠は気が付かない。目の前で一方的に声を荒げるルシーとそれをただ受け止め止めるように言うジーンの会話は途中で耳に入らなくなっていた。

だめだ。一瞬収まったけどまた・・・飲み込まれる

「・・・」

黒いのに飲み込まれる・・・虚ろな目で目の前に広がる背中を見つめる。

変わらない・・・あの時と何も。…一瞬合ったその目は、私を見るその目は、何も変わらない。

なんで・・・

「おい!・・・悠!聞こえてるのか!?聞いてねーだけかどっちだ!?」

「ぁ・・・翔ちゃん・・・たち」

声が耳に届いた刹那、先ほど感じていた感情は・・・いつの間にか消えていた。

反射的に声のする方を振り返るとクラスの窓から体を乗り出すようにして私を見ている。クリーム色の髪と薄桜色の髪もなんとなく見ることが出来、翔の隣には明るいこげ茶色の襟元が狼の毛の様な髪の短い男が心配そうにこちらを見ている、様な気がする。伝わってくるのは、焦りと心配。・・・翔ちゃんに至っては私のことしか考えてないな

「大丈夫か!?」

「…大丈夫」

じゃないけど。・・・とにかく、翔ちゃんの声で何とか助かったかも。それに、感情がダイレクトに伝わりすぎて最早気持ち悪い。

翔との会話中にSS塔寄りにさらに高度を上げており、会話を一度終わらせ再び高度を上げ止まる。

「・・・・・・・・ジーン」

「僕の名前は忘れないでいたんだね。・・・ねぇ悠。僕は君を許さないよ。裏切ったのも忘れていないはずだよ。だから・・・君が僕にしたように僕は君の大切なものを全部奪うよ」

わざとだろう。わざと響き渡るようにジーンが言う。

あぁ、まだ。まだジーンは恨んでいる。・・・あの時の事を忘れてはいない。

それはきっとお互いに

「大切なものなんて、遠い昔ーあの時ーに全部捨てた。」

「持っているだろう?・・・あそこにいる男は違うのか」

指差す方角には、翔ちゃんがいる。

「・・・大切なものは捨てた。今更、何を奪う」

大切な者も物も、私にはない

「まだ残っているだろう。君の命だ」

心臓から、聖杯が浮き出る場所へとツーと指を動かし、トンと小さな振動が伝わって来た。落ちていることに気が付いたが、幸いまだ力は効いているのかスピードはかなり遅い

「・・・ジーン」

私はジーンを裏切ってない。・・・例えジーン、が裏切られたと言おうが私はしていない。何も分からないかもしれない。・・・信じて欲しいのに。直接ジーンに問いかける

想いが伝わったのだろうか、ジーンの目つきが微かに変わった。だが、相手からの答えはない。

「ジーン・・・ジーンの馬鹿野郎が!!」

なんて、気が付いたら口走っていた。今、どこから声した?

「ば・・ばかやろう」

唖然とした驚いた顔。間抜けな表情で落ちていくこちらを見つめている。が、内心それどころではないのが・・・私だよ!!何してんだ?!なんだか全て一方的に攻撃されるわ会話をしようともしないわ一体何しに来たんだって色々イラッとしたからだろうね。

見るからに、ジーン動揺してるけど私が一番動揺してるからな?!・・・もう、知らね!

「まず話をするときは目を見て話せって言ったよな?」

「ぁ・・・ああ」

「人の意見を言わせない様にしない。最後まで話を聞いてから言えって言ったよな?今回はそれ以前の話しなんだが・・・未だにそんな簡単な事が出来ないなんて言わないよな?」

「ご・・・ごめん」

畳みかける様に先ほどと立場が入れ替わった状態で話しているのがー脅すようにしか見えないーが余程驚いたのだろう。しどろもどろになりながらはっきりと目を合わせている。

・・・昔の事だけど、しっかりと覚えている。ジーンは、話をするとき誰でも目を見て話す。なのに会ってから、目が合わない。それに、さっきから視線が泳いでいる。・・・私が知っている頃のジーンの癖だ。嘘を付いたり誤魔化そうとしたりするとあからさまに視線が泳ぐ。

だけど・・・こんなジーンは見たことがない。

私が覚えているジーンはいつも悲しそうに笑っていたから。

一呼吸置き、逸らしていた目を再びジーンへと向ける

「ジーンが一体何を考えているのか私には分からない。私を殺す理由だって分からない。だって、私を殺したって、どうにもならないことは分かってるはずだから」

殺したところで、どうするの。・・・私は裏切ってなんかいないのに


「君には・・・関係ないことだ」


ジーンはゆっくりと落ちていく私に背を向け、人一人入れるほどの小さな扉を呼び出す。既に扉は開いており枠組みだけがポツンと空中に浮いている。振り返ることもせず足早にジーンは暗闇へと消えていき困惑していたルシーもジーンを追うように傷口を抑え暗闇の中へ。・・・最後までこちらを睨みながら。

枠組みは直ぐに消え、そこには晴天が広がっている。まるで、初めから何もなかったかのように・・・

悠は扉のあった場所を見続けている。

背を向ける前に見せたジーンの表情が、微かに伝わって来た感情が頭から離れない。


ー彼女は気づいていない。否、忘れているのだ。落ちているということを

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