お互いの頂上へと向かう、甘さと淫らさをともなう動きが、ゆっくりと、…だんだん早くなる。


「…っんっ…、…い、…っ」


その行為に反応し始めた文親の口から漏れた、喘ぎとも呟きとも取れる言葉に。


「どうした?…痛い?」


聞くと。

文親はふるふると首を横に振る。


「…たくない。…痛く、…ないっ…。あっ…」

「文親さん?」

「…いいっ…、…気持ちい…い、から…っ……」


そして苦しい態勢のまま俺を振り返って。

聞こえるか聞こえ無いかの小さな声で。


「…もっと…っ…龍哉で…」


涙目のまま、紡がれる『お願い』。


「……壊し…て…?」

「…っ!」


その後。


マジで高校生並みにがっついて、しっかり文親を泣かせ(鳴かせ?)てしまったのは、絶対、俺のせいじゃあ、ない。






「お前さ、俺の事…口じゃお姫様扱いする割には、ベッドん中じゃ絶対自分が王様だと思ってるよな?今日なんて…特にそうだった」


もう二人とも指先一本動かしたくない。

充足感と引き換えの疲労でベッドに転がりながら、そう言われてしまったのは当然といえば当然かもしれない。


「そ、そんな事有りませんよっ!」


ギクッとしながら速攻で否定する。


「…信じられない」

「文親さん…」

「そんなヘタレた声出しても駄目。お前は、ベッドの外じゃレトリバーでベッド入って来たらオオカミなんだから」

「…オオカミ、好きな癖に…」

「…何か言った?」

「何にも言ってませんっ。…でもさ、文親さんだってずるいよ」

「…何が…」


俺は隣の文親に向き直る。


「最中にあんな事『お願い』されて俺、鼻血どころか全身の毛穴から血吹き出すかと思った」

「…あれはお前がオオカミだから言わせたんだろ?」


文親の表情はまだ少し拗ねモードだ。


「…」

「百歩譲って俺がオオカミ好きだとしても、久しぶりなんだから、優しくしようとかは思わなかったわけ?」

「…思った」

「……」


「部屋に入って、文親さん見るまでは」

「…龍哉」

「顔見ちゃったら…駄目だったわー。スッコーン、と理性飛んだ。…一週間まるっきり連絡遮断なんて初めてだったけど、もう何があっても遮断なんてしない」

「龍哉」

「どんな事情があっても、絶対にもうしない。こりごりだ。…ごめん。文親さん」

「…いいよ、その事はもう。そんなこと約束したって仕方ないし。……そうじゃなくって」


と。

文親さんは俺の前髪を引っぱる。


「今日は箍(たが)が外れ過ぎ。…お互い…様だけど。…嫌だったわけじゃない。ただ」

「ただ…?」

「…時々、怖くなるだけ。他の奴にだったら絶対赦さない事もお前には許してる。簡単に感情が引きずられる。お前以外と付き合った事も、関係を持った事も無いから判んないけど…恋っていうのはこんなに喰い込むものなのかって…」


少し早口でうっすら頬を染めて。でも少し悔しそうに文親は言う。


全く、この人は。

意地悪を言うのは俺にだけっていつも言うけど、この人の言う“意地悪”は俺にとっては蜜のようなものだ。

そして、時折見せる本音も、我が儘も。


「…ずるいよ…文親さん」

「龍哉…?」


俺は文親の唇を唇で塞ぐ。


「ん…っ……」


そっと唇を離して。


「そんな事言うなよ」

「……龍哉」

「自分がどんなに罪深い事言ってるか解ってる?」


俺の頬にそっと触れてくる文親の指先をぎゅっと握る。


「龍哉…だって、…それが、俺の今の気持ちだよ」

「…文親さ…」


俺が言葉を継ぐ前に。

今度は文親が俺に口づける。


「…っ」


吐息を分け合うような、甘く深い、官能的なキス。

いつの間にか、それに、深く、酔う。

先刻迄のように貪(むさぼ)るのではなく。

…甘い高揚に漂うように。


俺達は暫くその口づけと抱擁を解けずに、抱きあったままでいた。

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