文親が溜め息をつく気配がする。


「なんで嬉しそうなの?…だからお前は『俺馬鹿』だって言うんだよ」

「うん♪」

「簡単に認めるな、ばかワンコ」

「U^ェ^U♪♪」


電話かけて正解だった。

めっちゃ勇気いったけど。

ありがと、麻紗美ちゃん。


「…いつ、会えそう?」

「明日」

「明日?俺は大丈夫だけど、龍哉は大丈…」

「絶対、明日。多分なんも無いから、黒橋も駄目って言わないと思う」

「……」


声聞いちゃったら、会いたい。……抱きしめたい。

本当は今すぐ。でもさすがにそれは無理だから。


「…わかった。いつもの場所は急すぎて無理だから、篠崎に探させて、後で黒橋さんに電話させる。それでもいい?」

「…うん」




「仕方ありませんね…分かりました」


その日の夜。

黒橋はわりと簡単にOKを出してくれた。


「先ほど篠崎さんから連絡ありましたし。ただし、今回は私がBMWを運転して目的のホテルまでお連れします。…悪い前例がありますから、行き先は私と篠崎さんの頭の中です」

「わかった」

「マサを連れて行きたいなら警備の中に入れます」

「頼む」



黒橋を下がらせて一人になると。

久しぶりに聞いた文親の声が耳に戻る。

馴染みの良い、甘く適度な高さのテノール。

抱きしめて可愛がると、それが途端に高くなる。

俺の征服欲を煽るように…。


「…やっばっ…」


思わず自分の下腹部を見る。


「げっ…」


男の生理現象って、本当に遠慮がない。

声を思い出して、姿を想うだけで超元気!状態、って。ふぅ( ´Д`)=3。


ヤバすぎる。ヤリたい盛りの高校生でもあるまいし。

まだ二十代だから、元気でなくっちゃ困るけど。それにしても。たかだか一週間足らずでこれかよ。


「…どうすっかなあ?」


ヌいてもいいんだけど。

明日会えんのに一人で…ってのもやるせないっちゃやるせないんだよなあ。


「…風呂で水でも浴びてくっか!」


暫く考えた後。俺はなんとか本能との闘いに勝利して自分の頬っぺたを叩きながら立ち上がる。

我慢、ガマン、と唱えながら風呂場に向かう俺の背中には間違いなく哀愁が漂っていたと、思う。





「…で?」


翌日。

双方の補佐を引き連れて。

感動の再会(?)を果たした、とある高級ホテルのスイートで。


「俺はちゃんと我慢したのに、文親さんは無理だったんだ?」

「…っ、…あぅっ……うるさっ…いっ…!」


意地悪な俺の質問に答えようにも、今の文親には多分、無理だ。キングサイズのベッドにバックで組み敷いて、鳴かせてる最中だから。


「詳しく、…聞かせて?」


動かしていた腰を止めて、耳元に口を寄せて。


「どうやってヌイたの?…ねぇ?」

「…ゃあっ…」

「ん?」

「…嫌っだっ…、この、…悪…趣味っ…変態っ…馬鹿っ!…察しろよ、……俺っ…馬鹿の癖に…っ…!」


言い返してくる。

組み敷かれていても、さすがは清瀧の『若様』。凛とした様は崩れない。だがいつもは抱かれていてもその身にまとっている優雅さが希薄なのは飢餓感のほうが強いからなのだろう。


嬉しい。でも。


「馬鹿?」


その言葉で俺はグッと腰を入れる。文親の細い腰を掴んで、引き寄せるようにたかぶりを強く突き入れる。


「…あっ…あっ…あっ…そ、そこ、ダ…メ…っ…」


文親のイイ所に当たっているのは百も承知でやめてやらない。


「馬鹿?」


滅多に出してやらない、低く甘い、文親だけが知る、彼の一番大好きな意地悪な声で彼の耳元に囁いてやる。


「…誰が、馬鹿?…俺?それとも、…文親さん?」

「…っ!……その…声っ…ずる…いっ。…やめて…っ…」

「だって、俺が欲しくて欲しくて、後ろ…こんなにきつくして離さない…くせに…、馬鹿馬鹿言うからさぁ。…俺が馬鹿なら、あんたもそうでしょ?…あんただって十分、『俺(龍哉)』馬鹿だろーがよ?…なあ?ワカサマ?」


文親の優しい、いつ、会えそう?にときめく癖に、会えば簡単に欲情に焦がされる。一つ年上で、冷静な恋人がたった一週間のブランクで欲情に勝てなかったのが愛しくて。つい、苛めてしまう。

「俺だけワルイコにするのはずるいだろぉ?ワカサマぁ?」

「んっ…っん…ぅっ……」


もう、文親は言葉がつむげない。尻だけを高くして、枕に顔を埋めて。長く拡がる髪から覗く美しい横顔を覗けば。

はぁはぁと息をつきながら、すっかり意識を飛ばしている。


「スッゲェ、色っぽい」


思わず溜め息をつく。

極道にも関わらず、刺青の入っていない、文親の真っ白な背中は全体に薄いピンク色に色づいて。無意識に俺を煽る。怒るから言わないが、これが見たくて俺はセックスの終わりに、必ずバック(後背位)で抱くのだ。


「…龍哉ぁ…」


甘く、細い声はほとんど泣き声に近い。


「…ごめんね、文親さん、苛めすぎた…可愛過ぎて。ごめんね」


でもね。これ以上あんたを『苛めない』為には、あんたを鳴かすしか、無いんだよな。

俺は文親の腰を掴み直し、自分の腰の前にしっかり固定してから、動きを再開する。


「…っ…あっ……あっ、や、…あっ…」

「すぐ楽にするから」

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