津島の叔父貴は苦笑する。
「…ったく。龍ぼうの千分の一でもうちの息子に気概がありゃあなあ」
「…
津島の叔父貴には子供が二人いる。俺より五つ年上の息子と、俺より三つ年下の娘。
「ああ。悪くはないんだが、可もなく不可もない。津島の……神龍の代紋守らせるにゃあ、まだまだどうにも…心細くてな。……まあ、こんな話、神龍の跡継ぎの龍ぼうに聞かせるなんざ、弱気に過ぎるが」
「…高央さんのお話は色んな方面から聞きますよ。度胸もあるし、義理も礼儀もきっちりされている、と。前に一度お会いした時も、年下の俺に過ぎた礼儀を示してくれました。これからの時代、ああいう方が身内にいてくれるのは助かるし、心強い」
「…そう言ってくれると、親としちゃあ冥利に尽きる。組長は幸せだな」
津島の叔父貴が目を細めるのを見やりながら、心中で嘆息する。
暴対法施行の遥か前に青春を送り、バリバリの武闘派だったと聞いている津島の叔父貴と、どちらかといえば、頭脳派よりの高央さんとはまるで毛色が違う。
それに。叔父貴の言うように俺と高央さんとでは立ち位置がまるで違う。立ち位置が違えば気概の表しかたも違う。組を存続させる為のやり方は人それぞれ。
逆に、津島の叔父貴の背中を見ながら自分の舵取りは流されずに通している津島高央という男は、一度触れ合っただけだが見所のある人間のように思える。
再度、会ってみたい人物ではある。
「話を戻すが。とにかく挑発には乗らんようにな。龍ぼうの事だ、興味がなけりゃ指先一つ動かさんだろうが」
「…ご注意、有難うございます」
忠告を守れるかどうかは別にして、一応頭を下げて。
その拍子に俺はふとした事を思い出す。
「あ、そうだ。叔父貴。ちょっと待ってくれます?」
「?」
俺はスマホを取り出して黒橋にかける。
「黒橋、あれ持って来てくれ」
「はい、すぐに」
「なんだい?」
数分後。
「若、お持ちしました」
その声と共に黒橋が入ってくる。
その手には彼に似合わない可愛らしい薄桃色の手提げの小さな紙バッグが下げられている。
「叔父貴。麻紗美ちゃん、二日後、誕生日でしょ?これ、俺から誕生日祝いって渡して下さい」
「っ!…おいおい。また気を遣わしちまったな。いつもいつもありがとよ。去年も、龍ぼうのプレゼントで、一週間くらいキャーキャーうるさかったんだよ。…高いんだろ?これ」
○ョパールのハッピースポーツオートマティック。麻紗美ちゃんをイメージして選んだのはピンクを基調とした十八金ローズゴールド、文字盤のガラスの中にはダイヤの小粒が磁力でランダムに動くようにちりばめられているタイプだ。
「そんな事、気にしないで受けて下さい(笑)。妹にプレゼントするみたいで結構楽しいんですよ」
本当の妹、か。あいつは、プレゼント以前に、俺を覚えているのだろうか。
「龍ぼう…娘には後でメールさせる。…有難うな」
俺の“事情”を知る、数少ない人間の一人である叔父貴は一瞬、痛ましげに俺を見る。
だが笑みを浮かべる俺から何かを感じたのか、言葉にせずに流してくれる。
「デザート頼むか」
「ええ」
帰りの車中。
「喜んで下さるといいですね」
俺の横で静かに黒橋が呟いた。
「ああ」
ここの所、心中がやはりどこか殺伐としていたせいか、麻紗美ちゃんのプレゼントを選んでいた時間は良い気分ばらしになった。
とはいえ、女物の時計を買うのに男一人というわけには行かず、店を持たせているクラブのママに付き合って貰うことにした。
「他の女のかたへの買い物につきあえって、本当ならお断りって感じなんだけど。若、いえ、龍哉さんなら仕方ないわね」
「済まないな、みんなカップルな所に一人で入るにゃ、俺は気が弱い」
「まあ(笑)、嘘ばっかり」
「送る相手ってのが親父の舎弟の娘なんだよ。今度二十一になる。義理は欠けないし」
「確かに龍哉さんと津島様、仲がよいですものね」
「まあ、買うもんは決めてある。前に大学の入学祝いに時計をやっぱり贈ったんだがその時の手首サイズの覚え書きが手元にあるし。すみません、これ貰いたいんだけど、新しいものの在庫ある?」
俺はカウンター奥の店員に声をかける。
すぐに、中堅と見て取れる男性が静かに歩みよってくる。
「承ります。少々お待ち下さい」
少し待っていると、
「ご用意出来ます。本日のお持ち帰りになさいますか」
「ああ、ここに手首サイズの覚え書きあるから微調整したらプレゼント用にラッピングを。二十歳そこそこなんで可愛らしめにな」
いつの間にか奥に案内されて、ソファーに腰をかけながら女物の小物を頼んでる自分。麻紗美ちゃんと三つしか違わないのに。男所帯の舵取りは確実に俺を親父にしているのだろうか。
「あの、お支払はいかが致しましょう。各種クレジットカード使えますが」
「現金で」
「まあ、龍哉さん、男らしいわ」
「…その前にさ、ちょっとネックレスも見たいんだけど、お兄さん」
「は、はい、今すぐ」
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