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悪事千里を走る──。
俺と雅義の
勿論よく結婚式場で司会者がよく言う、あんなニュアンスで。
『キモい。即、着拒』って言ったら撤回したけど。…全く)の噂は瞬く間に周辺の極道の輩に広まった。悪事、とはいってもそれは阪口組にとってのそれで、俺達からすれば、降りかかる火の粉を払う準備段階的なものだったのだが。
反響は様々だった。三下の組員とはいえ身内に売られた俺を不行き届きと噂する奴等もいたし、逆に即断即決で情け容赦なく処断した俺を若頭としては悪くない決断力だと褒める者もいた。
親父に手を回して出した赤破門状を井上にくくりつけて阪口組に見せつけた事に対して親父の周りの老練な幹部から文句でも出るかと思ったが、義理を欠く事を恥とする世界で義理を忘れた奴には当然の報いだとの反応で、少し安心した。本来、敵対組織には身内の破門状など恥として送らないが、今回は威嚇として、身内だからと加減はしない、恥になろうが俺達に手を出す奴の末路がどうなるかを見せるものだったから身内から援護のあるのは嬉しかった。
「人間が一人入る位の頑丈な段ボール箱に入れて、目立たない白い普通のバンの荷台に乗せて、小野原がやってるキャバクラの裏の搬入口に台車ごと置いてきたよ」
電話で、雅義はそう言った。
「…えげつな~い、雅義クン(笑)」
「阪口組の本部ビルの前に置き去りにしても良かったんだけど。世間の皆様がうっかりプレゼントの箱開けて腰抜かしたりしたら大変だし。通報されたら、もっとやばい。『紙』付きだからね」
「確かにな」
店の中なら。
居合わせた従業員とお姉ちゃん達には全くもって気の毒だが、
「驚いただろうな~。かろうじて息はしてたけど、あの“荷物”。だって、殺さなきゃいいっていうからさぁ。まあ、山科が半ギレしてたから傷は想像してよ」
「あの山科さんがね~。ま、うちの黒橋だってキレたんだから坊っちゃん大事の山科さんがキレねぇ理由は無いな」
「開けてびっくり、玉手箱ってヤツかな(笑)」
「…お前、ホントにえげつないよ。可哀想、御姉様方(笑)。トラウマレベル?」
「……。龍哉だって十分えげつねぇよ。何、その楽しそうな声」
「分かった(笑)?」
届けられた“荷物”の更にその先の末路まで知っていて、事も無げに会話した。
「…どんな反応してくるかねぇ」
「さぁ、ねぇ?」
親父の舎弟の津島さん(俺は通常、津島の叔父貴と呼んでいる)から連絡があったのは、五日後。
ちょっと会えないかというので、喜んで、と話を受け、やって来たのは。
「へぇ、叔父貴も洒落た店、知ってるんですね?」
都心から少し離れ、周りを緑に囲まれた店で料亭にしか見えないが、中に入ると全然違う。
イタリアの魚介料理が主だという店内は落ち着いていながら内装や置かれた小物、椅子、テーブルに到るまでこだわりが有るのがすぐに分かる。
「ここはな、もとは、デカい声じゃ言えないが、かみさんの父親が愛人にやらせてた料亭だったんだが、経営が傾いて、売ろうかなんて話が出た時に義理の弟がそれまでやってたホテルの料理人をすっぱりやめて、ここでイタリアン料亭ってやつをやりたいって言い出してな。義弟は極道を嫌って家を出た奴だから義父は渋ったが、元々売る筈だった物件だ、やってみろ、と任せたら、もう十年は続いてるかな」
津島の叔父貴は下部組織の極道から妻を
「そう、なんですか」
「個室は完全予約制だし、俺らにとって有難い事には別玄関も離れもある」
因みに俺と津島の叔父貴が通されているのは離れの個室だ。
「呼ばなきゃ、誰も来ない。密談するにゃ、良い場所だ。旨いもんも食いたいが、まず、ちょっと話したくてな」
「…はい」
早速きたか。
『話』、なんて一つしかない。そんな事、津島の叔父貴も俺も重々わかっていてのやり取りだ。
「坊ん、阪口組の小野原って奴が湾(東京湾)に浮かんだのは聞いてるか?」
「…ええ」
二日前。
耳に飛び込んで来た知らせ。さすがに驚いた。
まさかの荒業に。可哀想に、小野原、百年分びびる間もなく、冥土への旅路に一直線になったわけだ。
調べを進めてみれば、小野原は幹部でも上位の人間だった。阪口組の現在の組長、
側近はあと二人いるが、消された小野原は頭脳派ではなく、主に実動部隊。評判は、はっきり言えば最低。脳みそを使わずに動く衝動的な性格には仲間内でも眉をひそめる者も多かったが、現在の組長の気に入りだった為、例え鼻つまみ者でも簡単には排除できなかったらしい。組が大きくなっていく中で己の保身と我欲にしか終始しなければ、組織の歯車の中で浮いていくのは当たり前。
孤立し、足掻いて、結局は自滅してゆくのは末端だろうと幹部だろうと同じだ。
「小野原って奴はだいぶ功を焦ったようだな」
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