普通は懐紙に包み、持ち帰り、保管する。
それを俺の目の前で割って見せた。
交わした盃を割る。
極道の世界ではそれは最上級の忠誠の証だ。
盃を返す気は無い=この先の一生を【親】に捧げるという【子】の気概を示す行為。
俺以外にはもう仕えないという
その時、幹部の一部の人間は黒橋を嘲笑った。
組長の血縁、養子縁組みして義理の息子とはいえ、極道として大成するかも分からぬ二十歳の子供にそこまでするのは愚の骨頂だと。
けれど黒橋は彼らに何も言わず、俺もまた言わなかった。言わずに、一年で俺達を嘲笑った奴等の倍の上納金を組に入れ、不穏分子を一人一人叩き潰した。
思えば、それは組長やその当時の組上層部からの試練だったのかもしれない。あえて俺への反発の声を押さえずどう火の粉を払うかを見ていたのだろう。それに俺と黒橋は
変化の時はきているのかもしれない。
「しかし、まあ。届いた“荷物”見て、小野原がどんな顔するか
昨日の黒橋を思い出しながら、俺は雅義との会話に戻る。
「…殺さなきゃ、奴が真っ青になるくらいには、ハンコ押して良いんだよな?」
「雅義、声が恐いよ?生きてさえいりゃ良いんじゃねぇか?ただ向こうへ置いてくときは上手くやれよ?」
「ああ、それは任して?」
昔のヤクザなら平気でできた見せしめでも、暴対法が施行された今じゃ、一般人に通報でもされたら終りだ。
「山科、そういう“処理”、すっげぇ好きで、滅茶苦茶上手いから(笑)」
「怖ーい」
けらけらと笑う俺達は、きっと世間から見れば間違いなく人でなしだ。
そんな事は二人とも百も承知で笑っているのだから、
電話を切ってから。
「さて、と。これでどうでるか。…ごめんな、文親さん。静観…じゃねぇな」
俺は独り呟く。
「“お仕置き”決定かな」
事情が分かれば黙っていたのを怒るような文親では無いけれど、もしも怒ってもまあ、それも悪くない。
鬼畜。人でなし。
そう世間が
両手を見える血にも見えない血にも染めながら、その宿命ともいえるものをどこかで楽しむ。
それが『極道』ならば文親も俺も、また、雅義もそうだろう。血の流れる世界でしか生きる術を持たない。
ならば笑ってこの道を生きる。
まあ、せいぜい小野原とかいう奴にはびびって貰おう。
向こう百年分…くらいには───。
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