第31話

「俺は綺が付き合っているあのヒトが気になる。」


「……どうして、そんなこと言うの、」


アタシがそう言うと若月君は少し困ったような表情をした。



「……若月君、アタシ……、」


アタシは何を言おうとしているのだろう。

不意に彼の名前を呼んでいた。


彼と再会してからアタシは変だ。


過去は過去にすぎない、と思っていたのに、


彼はアタシには必要じゃない人だと認識しているのに……、


実際、彼に会うと心が揺さぶられるし動悸さえ覚える。


それってどういう気持ちなの?


「……綺?」


若月君に名前を呼ばれると複雑な気持ちになる。


泣きたい気持ちに近い。


それは……、


「……アタシは、もう……若月君との過去は忘れたの。だから……こんな事もうしないで……。」



あの過去をわざわざ引きずり出さないで欲しい。



彼を好きだった過去を。


アタシはそう言って近くに停まっているタクシーに再び乗った。

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