第28話

その後はアタシも若月君も無言だった。


若月君が言った目的地が長く感じる。


たった二つ目の駅なのに……。


アタシは落ち着かなくて、


「あ、あの図面を相手の理事長さんに見てもらったんだけど、一度会議をしたくて、」


仕事の話を始めた。



「仕事の話は秘書通してくれる?スケジュール俺あんまり分からないんだ。」


若月君はアタシと視線を合わすことなく淡々とそう言った。


「あ……ごめんなさい。」


「あ、もう此処でいいです。」


若月君はいきなり車を停めた。


アタシは安堵する。

彼と離れられるから。



ドアが開く。



「お、お疲れ様でした。」


降りようとする彼にアタシは声を掛けた。


すると彼は何処から出したのか運転手さんにお札を渡す。


「え、」


それを見てアタシは思わず声が出ていた。


そして不意に腕を掴まれる。


アタシは若月君と一緒にタクシーを降りてしまった。

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