31・おかえりなさいませ

第31話

「ティスの手を労ってやりたいけど目の前に会いたかったティスが居てもう我慢出来ない」

「…リン様っ」


リンがティスを抱きしめる。


「はぁー…。ティスの“匂い”。癒される〜〜」

「匂い?ちよっと待って!待って!」

「もう、逃がさん」


ガッチリとホールドされたティスは、逃げる選択がなくなり恥ずかしい思いをしながらリンの腕の中に大人しく居る事になる。



「リン様、そう言えば先程の言葉…」

「帰らせないよ。ティスはずっと俺の側にいる」


そう言われてトプンッと心臓が高鳴った。


〔カルティロス王子は縁談・・で帰ってるのよ〕

「……」


急に心臓が冷たくなった。


「リン様…」

「どうかした?ティス」

「…戯れはおやめ下さい」

「ティス?」


縁談がありこの人は隣国ナウロスタニ国の第一王子。

ティスは、リンの胸で拳を作って顔を上げて目線を合わせる。


「リン様、縁談があるのですよね?私に構ってるより早く決めて頂かないと…」

「ティス!何故、それを?!」


リンは慌ててティスを剥がして目線を合わせる。


「リン様、早く決めて下さいね。私は戻ります」

「……」


そう言って立ちあがろうとしたら、手を握られてそれ以上は進めない。


「リン様?」

「ティスと合うのは久しぶりなのに嬉しくないのか?」

「嬉しいとか嬉しくないとかそういう問題じゃ

ありません。リン様には相応しい…」


言葉が続かないティス。

それ以上は言いたくなかった。


「俺は、久しぶりに会えて嬉しい。今、思うのは

縁談の件じゃなくティスに会えて嬉しい気持ちしかない」

「リン様…」


リンは、ティスに会えて“嬉しい”という気持ち。

なら、ティス…私は?と思ってしまった。

ここで意地を張りたい訳では無い。

ティスも、リンに会いたくて仕方なかったのだ。


「私も…私も…」


ティスは、服を握りしめて俯いて言葉を出す。


「私も、会いたかったです。リン様に会えて嬉しいです」


今は、縁談・・の件は頭の隅に追いやろうとしてリンに抱きついた。


「リン様!おかえりなさいませ!会いたかったです」

「ただいま、ティス。やっと素直になったな」


リンが帰ってきた今だけ求めても良いよね?と

自分自身に言い聞かせるティス。


「リン様、ご無事で何よりです」


笑顔でリンを迎えたティスだった。

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