30・待ち侘びていました

第30話

歯向かってはいけない事は分かってるけど返事はしたくなかったティス。


「…はっ…」

「ランティス!返事がないじゃない?」


ラリーネがティスの手を踏み付ける。


「痛っ!」


じかに靴で踏みつけられていて涙がジワっと溢れてくる。


「はっ…」


返事をしないとこの痛みから逃れられないと思い返事をしようとした。


「ティスは、帰らないよ」


「!?」

「誰っ?」


ティスにとっては久しぶりの男の人の声。

ラリーネと義母にとっては初めての男の人の声。


「リン様…」

「何処の誰だか分からない男に我が家の事を口に出してもらっては困りますけど?」

「そうですわ。クズ妹の姉で本当最低と思ってる所に口を出す権利はないですけど?」


2人はこの男の人が誰だか知らないのだ。


「そこの2人こそ無礼だぞ?此の方は、隣国カルティロス・リン・ナウラリ第一王子で在らせられる」



ヤリーがリンの説明をすると2人は一気に青ざめて辿々たどたどしいカーテシーをした。


「ティス、大丈夫か?」

「…ありがとうございます。リン様」


手を差し伸べるリンにティスは迷いなく手を取り立ち上がる。


「カルティロス王子、妹より私の方が賢いですわ。クズな妹よりお側に置いて下さいまし」


王子と聞いてコロッと態度を変えリンに近付こうとしたがヤリーが間に入る。


「妹君をあの様に痛めつけた女と母親に

カルティロス王子がなびくと思うか」

「ひっ!」


ヤリーが2人に剣を突き付ける。


「即刻、帰られ。ティスは、家には戻らない」


リンは汚れたティスの手を引いて城の中に入って行った。


「なんで、あの子だけ!!お義母様!」

「ラリーネの方がよっぽど賢いし、可愛いわ。

きっといやしい手を使ったのね」

「ランティス王子、私の旦那様に欲しいですわ」


ラリーネと義母は悔しそうに帰って行った。


「ティス、手はどうだ?」

「助けって下さってありがとうございます」


ティスは着替えてリンの部屋に行き、2人はベットに座って、リンはティスの手を見てる。


「ティスの綺麗な手になんて事をしでかすんだ!とんでもない姉と母親だな!」

「綺麗とは言えませんけど…」


久しぶりの恥ずかしい言葉にドギマギしてる

ティス。

こんな気持ちも久しぶりの事で、目の前の男性を見るのも久しぶりなのだと実感した。

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